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0015 長い一日の終わり

「なんですか?」


僕の代わりにジュラさんが答えてくれた。


「おめぇーじゃぁねぇーんだよーっ! しゃしゃり出るんじゃねえ! 段々ヒゲのおっさんの方だよ!! バカが!!」


うわあぁー、ジュラさんの目が血走っている。

すげーつりあがっているよぉーー。


「ぼ、ぼぼぼ、ぼ、僕ですか」


「ひっひっひっ!! そうだお前だよ!! なんだ、びびっているのかぁーーあ?」


リーダーは僕に顔を近づけると、臭い息が顔にかかる位の近さで話しかけてきた。


「ははは、はい」


両方の意味でびびっている。


「ひゃははは! くそがっ!!!! てめー、その剣はなんだ! 不釣り合いなんだよ!!!! 見せてみろ!!!!」


最初は笑っていたけど、途中で真顔に成り、怒りの表情になった。


「これですか?」


相変わらず勇者の剣は目立つようだ。

はぁーーっ、また逃亡勇者と笑われるのだろうなぁー。


「ばっきゃぁろーー!! そっちじゃねえ。そっちのごっつい黒い方だっ!! わかるだろうがよぉー!! 考えろよなバカが!!!! ぺっ!!」


言うだけでは無くツバまではきゃあがった。

それが、僕のヘソのあたりにかかった。まったくたちが悪い奴だ。

僕が左手で持っている漆黒の剣の方がご希望のようだ。

この剣は、鞘に取っ手が付いていて、盾のように持つ形になっている。

重すぎて腰に付けられないのだ。


「これですか?」


僕は漆黒の剣を少し上に上げた。


「そうだよ! それだよ! 貸してみろ!!」


リーダーは両手を前に出した。

そこに置けと言うことなのだろう。


「まあ、良いですけど。いきますよ」


僕は漆黒の剣をリーダーの腕の上に置いて、取っ手から手を離した。

コンと乾いた音がした。

リーダーが首をのばして、口をパクパクしている。

まるでパン食い競争でパンをくわえようとしているみたいだ。

リーダーは指で足元を見ろとチョンチョンと下に動かしている。

つま先に漆黒の剣が落ちてつま先をつぶしている。


「おおっ!!」


あわてて、手下の3人が声を上げると剣を持ち上げようとした。


「な、ななな、なんだこれは!! もち上がらねえ!!」


なるほど屈強な男3人でも、もち上がらないようだ。


「あの、デミル様。私がチャレンジしてもよろしいですか?」


「どうぞ」


僕が言うと、ジュラさんが漆黒の剣の取っ手をつかんだ。

すっと、普通の剣を持つように持ち上げた。

そして鞘から剣を引き抜くと、片手でブンブン素振りをはじめた。


「すごいです。大地の精霊様の加護の力のおかげです」


そう言うとジュラさんの布に隠れた鼻の部分が、ピクピク動いている。


「わらわにも貸すのじゃ!!」


こんどは、シエンちゃんが漆黒の剣を手にした。

そして、ブンブン振りまわす。


「な、なななな……すげーーっ!!」


ギルド中から声がする。


「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」


リーダーが、やっと声を出した。

そうとう痛かったようだ。

靴のつま先を見ると、ぺっちゃんこにつぶれている。

大量出血しているのだろうか、靴から血があふれだしてきた。

シエンちゃんが剣を鞘に収めると僕に返してくれた。


「サイアさん、この4人も名簿に登録しておいてください。あと、説明もおねがいいたしますわ。さあ、デミル様。行きましょうか」


そういうと、ジュラさんは、ギルドの出口に向って歩きだした。


――ふーーっ! よかったぁーー!!


僕はほっとしている。心底ほっとしている。

情けない。自分で自分が情けない。

普通、こんな時は余裕で相手を殴り飛ばして「お前達程度には虫を殺す程度の力もいらねえようだな」とか言ってかっこうを付けるところなのだろう。

でも、僕は恐いのだ。

がらの悪い連中が心底恐い。


剣が勝手に落ちて、危機を回避とかかっこわるいよなぁ。

僕はトボトボ、ジュラさんとシエンちゃんの後を付いて行く。


「どわっ!!」


はーーっ! かっこわりい、何にも無いところでつまずいてこけそうになった。


ジュラさんとシエンちゃんは、気がつかなかったようだ。

はぁーーっ!! しまらねえかっこわりいおっさんだ。






「今日は、いろいろありましたのでお疲れになられたでしょう。早めにお休みになってください。ステラ! デミル様をおまかせいたしましたよ」


「はい!」


ジュラール邸に付くと、ジュラさんは僕の面倒をステラさんに任せると、大きな扉の中に入って行った。


「おじいさまーーーーーーーー!!!!! す、すごすぎまーーす!!」


「こ、これ!! まだ、外にデミル様がいらっしゃるじゃろう!!」


「は、はい。申し訳ありません」


「……」


そこからはヒソヒソ声になってしまって聞こえなくなった。

いったい何を話しているのだろう。

悪口じゃ無ければ良いのだけれど。


「オルパ、モルチェ、メルノ、ネイラ、あなた達は年が近そうです。シエン様を見てあげて下さい」


4人の美少女メイドはオルパ、モルチェ、メルノ、ネイラという名前らしい。

オルパちゃんは長い銀髪だが、光の反射によって七色に光って見える、特殊な髪質のようだ。美しい髪をしている、かしこそうな子だ。

モルチェちゃんは、深い青色の髪をしている。大人しそうな子だ。

メルノちゃんは、オレンジ色の髪だ。短い髪で活発そうだ。

ネイラちゃんは緑色の髪で、すこしうれいのある幼い中に大人びた感じがまじる子だ。


「お前達も知っておるじゃろう。わらわは、デミル様の護衛じゃから、デミル様から離れることはできない。勝手にさせてもらうのじゃ」


シエンちゃんは、僕の横に来て僕の顔を見つめた。

うーーん、綺麗だ。

整っている。

1番の美少女だ。

だが、1番がさつだ。なんとかしなくてはなぁ。


「シエンちゃん、せっかくだが、僕はお風呂に入りたい。ここからは別行動です。一人にして下さい」


「なぜじゃーー!! それなら一緒に入るのじゃーー!!」


「駄目に決まっている。それだけはゆるさない」


僕は少しだけ、恐そうにきつく言った。


「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!! こえーーっ!! デミル様がこえーーっ!!」


シエンちゃんがガタガタ震えている。


「ステラさん、シエンちゃんをよろしくお願いします」


「オルパ、モルチェ、メルノ、ネイラ。シエン様を御願いします。私は、デミル様のお世話をいたします」


そうでした。この人も勝手に裸で人の風呂に入ってくる人でした。


「ステラさん!! 本当に、だめです。ゆるしません! いいですね!!」


「ははは、はい!!」


こうして、やっと、落ち着いて風呂に入り、床につきました。


――ふーーっ、長い一日だった。

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