「なんですか?」
僕の代わりにジュラさんが答えてくれた。
「おめぇーじゃぁねぇーんだよーっ! しゃしゃり出るんじゃねえ! 段々ヒゲのおっさんの方だよ!! バカが!!」
うわあぁー、ジュラさんの目が血走っている。
すげーつりあがっているよぉーー。
「ぼ、ぼぼぼ、ぼ、僕ですか」
「ひっひっひっ!! そうだお前だよ!! なんだ、びびっているのかぁーーあ?」
リーダーは僕に顔を近づけると、臭い息が顔にかかる位の近さで話しかけてきた。
「ははは、はい」
両方の意味でびびっている。
「ひゃははは! くそがっ!!!! てめー、その剣はなんだ! 不釣り合いなんだよ!!!! 見せてみろ!!!!」
最初は笑っていたけど、途中で真顔に成り、怒りの表情になった。
「これですか?」
相変わらず勇者の剣は目立つようだ。
はぁーーっ、また逃亡勇者と笑われるのだろうなぁー。
「ばっきゃぁろーー!! そっちじゃねえ。そっちのごっつい黒い方だっ!! わかるだろうがよぉー!! 考えろよなバカが!!!! ぺっ!!」
言うだけでは無くツバまではきゃあがった。
それが、僕のヘソのあたりにかかった。まったくたちが悪い奴だ。
僕が左手で持っている漆黒の剣の方がご希望のようだ。
この剣は、鞘に取っ手が付いていて、盾のように持つ形になっている。
重すぎて腰に付けられないのだ。
「これですか?」
僕は漆黒の剣を少し上に上げた。
「そうだよ! それだよ! 貸してみろ!!」
リーダーは両手を前に出した。
そこに置けと言うことなのだろう。
「まあ、良いですけど。いきますよ」
僕は漆黒の剣をリーダーの腕の上に置いて、取っ手から手を離した。
コンと乾いた音がした。
リーダーが首をのばして、口をパクパクしている。
まるでパン食い競争でパンをくわえようとしているみたいだ。
リーダーは指で足元を見ろとチョンチョンと下に動かしている。
つま先に漆黒の剣が落ちてつま先をつぶしている。
「おおっ!!」
あわてて、手下の3人が声を上げると剣を持ち上げようとした。
「な、ななな、なんだこれは!! もち上がらねえ!!」
なるほど屈強な男3人でも、もち上がらないようだ。
「あの、デミル様。私がチャレンジしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
僕が言うと、ジュラさんが漆黒の剣の取っ手をつかんだ。
すっと、普通の剣を持つように持ち上げた。
そして鞘から剣を引き抜くと、片手でブンブン素振りをはじめた。
「すごいです。大地の精霊様の加護の力のおかげです」
そう言うとジュラさんの布に隠れた鼻の部分が、ピクピク動いている。
「わらわにも貸すのじゃ!!」
こんどは、シエンちゃんが漆黒の剣を手にした。
そして、ブンブン振りまわす。
「な、なななな……すげーーっ!!」
ギルド中から声がする。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
リーダーが、やっと声を出した。
そうとう痛かったようだ。
靴のつま先を見ると、ぺっちゃんこにつぶれている。
大量出血しているのだろうか、靴から血があふれだしてきた。
シエンちゃんが剣を鞘に収めると僕に返してくれた。
「サイアさん、この4人も名簿に登録しておいてください。あと、説明もおねがいいたしますわ。さあ、デミル様。行きましょうか」
そういうと、ジュラさんは、ギルドの出口に向って歩きだした。
――ふーーっ! よかったぁーー!!
僕はほっとしている。心底ほっとしている。
情けない。自分で自分が情けない。
普通、こんな時は余裕で相手を殴り飛ばして「お前達程度には虫を殺す程度の力もいらねえようだな」とか言ってかっこうを付けるところなのだろう。
でも、僕は恐いのだ。
がらの悪い連中が心底恐い。
剣が勝手に落ちて、危機を回避とかかっこわるいよなぁ。
僕はトボトボ、ジュラさんとシエンちゃんの後を付いて行く。
「どわっ!!」
はーーっ! かっこわりい、何にも無いところでつまずいてこけそうになった。
ジュラさんとシエンちゃんは、気がつかなかったようだ。
はぁーーっ!! しまらねえかっこわりいおっさんだ。
「今日は、いろいろありましたのでお疲れになられたでしょう。早めにお休みになってください。ステラ! デミル様をおまかせいたしましたよ」
「はい!」
ジュラール邸に付くと、ジュラさんは僕の面倒をステラさんに任せると、大きな扉の中に入って行った。
「おじいさまーーーーーーーー!!!!! す、すごすぎまーーす!!」
「こ、これ!! まだ、外にデミル様がいらっしゃるじゃろう!!」
「は、はい。申し訳ありません」
「……」
そこからはヒソヒソ声になってしまって聞こえなくなった。
いったい何を話しているのだろう。
悪口じゃ無ければ良いのだけれど。
「オルパ、モルチェ、メルノ、ネイラ、あなた達は年が近そうです。シエン様を見てあげて下さい」
4人の美少女メイドはオルパ、モルチェ、メルノ、ネイラという名前らしい。
オルパちゃんは長い銀髪だが、光の反射によって七色に光って見える、特殊な髪質のようだ。美しい髪をしている、かしこそうな子だ。
モルチェちゃんは、深い青色の髪をしている。大人しそうな子だ。
メルノちゃんは、オレンジ色の髪だ。短い髪で活発そうだ。
ネイラちゃんは緑色の髪で、すこしうれいのある幼い中に大人びた感じがまじる子だ。
「お前達も知っておるじゃろう。わらわは、デミル様の護衛じゃから、デミル様から離れることはできない。勝手にさせてもらうのじゃ」
シエンちゃんは、僕の横に来て僕の顔を見つめた。
うーーん、綺麗だ。
整っている。
1番の美少女だ。
だが、1番がさつだ。なんとかしなくてはなぁ。
「シエンちゃん、せっかくだが、僕はお風呂に入りたい。ここからは別行動です。一人にして下さい」
「なぜじゃーー!! それなら一緒に入るのじゃーー!!」
「駄目に決まっている。それだけはゆるさない」
僕は少しだけ、恐そうにきつく言った。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!! こえーーっ!! デミル様がこえーーっ!!」
シエンちゃんがガタガタ震えている。
「ステラさん、シエンちゃんをよろしくお願いします」
「オルパ、モルチェ、メルノ、ネイラ。シエン様を御願いします。私は、デミル様のお世話をいたします」
そうでした。この人も勝手に裸で人の風呂に入ってくる人でした。
「ステラさん!! 本当に、だめです。ゆるしません! いいですね!!」
「ははは、はい!!」
こうして、やっと、落ち着いて風呂に入り、床につきました。
――ふーーっ、長い一日だった。