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0016 貧乏くじ

僕は久しぶりにベッドを使った。

ずいぶん昔にビジネスホテルに泊まって以来だ。

しかも御貴族様用のフカフカベッドだ。

天井まで付いている、お客様用じゃないだろうか。おまけに部屋も広い広い。

余りにも深い眠りだったためか、まだ暗い内に目が覚めた。

少しの間、窓から外を眺めて手洗いを済ませもう一度横になった。




「あっ、デミル様。おかえりーー」


シエンちゃんが神域の深い森の中で、家に帰る僕を見つけて言ってくれた。

そこからは2人で神域の森の家に向った。


「ただいま」


僕は家の扉を開けて言った。

この家は、神域の森で僕が作ったほったて小屋だ。

中に入ると、ジュラさんがいた。


「おかえりなさい」


ジュラさんが笑顔で言ってくれた。相変わらず美しい人だ。

でも、家の中は日本にいたときに住んでいたボロアパートの中だった。

なるほど、さては夢だな。


「シエンちゃん、少しほっぺを……いや、いやいや、ジュラさんだ! ジュラさん、ほっぺを叩いてくれないかな」


僕は、昼間シエンちゃんに殴られて、えらいめにあったこと思い出してジュラさんに頼んだ。


「はい。こうですか?」


ジュラさんはペチンと軽く叩いてくれた。


――うん。痛くない。これは夢だ! 夢だと本当に痛くないんだな。驚いた。


僕はこのボロアパートで、ずっとさみしい一人暮らしだった。

貯金残高は、六万円ほど。終わっている。


「ジュラさん、シエンちゃん、ゲームでもしようか」


「ええっ? げえむ? 何ですかそれは?」


僕はゲームの説明を2人にして、いろいろなゲームをした。

もちろん僕の一人勝ちだ。3人でやるゲームは滅茶苦茶楽しかった。

お腹が空いて来たので、3人で近所のカツ丼屋さんに行ってカツ丼を食べた。

3人で食べるカツ丼は500円でも滅茶苦茶うまかった。

夢のような夢だった。


「デミル様、そろそろ朝食の時間です」


ステラさんの声がする。

僕が目を開けると、目の前に美少女のシエンちゃんの顔がある。


「えっ??」


後を見たら、美人のジュラさんの顔がある。

ふふふ、どうやら、僕はまだ夢を見ているようだ。


「おはようなのじゃ」


「おはようございます」


2人が目を擦りながら言ってくれた。


「シエンちゃん。いやいや、ジュラさんちょっと、ほっぺを叩いてくれないかな」


「えっ?? よろしいのですか??」


ジュラさんが何の事か分からないという表情で、手を振り上げた。

さっきと違い、えげつないほど振り上げる。

バチコーーンとえげつない音がして、僕は部屋の壁まで飛んで壁に強く体を打ち付けて、バウンドすると何度も床を転がった。


「いてーーっ!!??」


――夢じゃねえ!!


じゃねーんだよー、ジュラさんのビンタがシエンちゃんのビンタと同じ位いてーーっ。

ああっそうか、大地の精霊の力の加護でジュラさんはシエンちゃん位に、力が強くなっているんだった。


「も、申し訳ありませーーん!! まだ寝ぼけていて、力の加減を間違えましたーー!!」


ジュラさんが何度も頭を下げた。


「い、いえ。頼んだのは僕です。ジュラさんが謝る必要はありません」


と、格好を付けてみたが痛すぎる。

ちょびっと涙が出た。

ああっ、我ながらなさけねえ。

もう、2度とこの二人に叩くのは頼まないでおこう。

今度はステラさんに頼もう。絶対間違えないようにしよう。


「じゃねーーんだよ!! なんで2人が僕のベッドにいるのですかーー!!」


「むふっ、忍び込みました」


2人とも良い笑顔で言った。

罪の意識はないようだ。

もう、文句を言う気力が無くなりました。


「着替えるので出ていって下さい!!」


朝食を済ますと僕達は、ギルドに行き受付をすませて街の警備に向った。




街には活気がなかった。

人々に活力というものをまるで感じ無い。


「はーーっ! カツ丼がうまかったのじゃ」


「そうですね。初めての味でした」


「えっ!?」


「げえむも楽しかったのじゃ」


「そうですね。楽しかったですね」


「えっ!? 2人とも何の話をしているのですか」


「そう言えばおかしいですね。昨日見た夢の事です」


「そうなのじゃ。夢なのじゃ」


「ジュラさん。それは、どんな夢だったのですか」


「デミル様の小汚い家でげえむをして、カツ丼を食べる夢です」


むむ、小汚いはよけいです。まあいいですけどね。合っています。


「あの、この世界にはカツ丼はありますか?」


「いいえ、あのように美味しい食べ物はございません。はーっ、おいしゅうございました。もう一度食べてみたいです」


「ふむ、食べたいのじゃ」


うむ、おかしい。

3人とも同じ夢を見たみたいだ。

こ、こんなことってあるのだろうか。


「うわあああぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!!!」


突然大きな声が聞こえた。


「ジュラさん、あれは悲鳴でしょうか」


「悲鳴です。行きましょう」


うーーん、あんまり僕は行きたくないんだけどなあー。

角を曲がると、見ただけでわかる強盗がいる。

顔を布で隠している。

まるでジュラさんみたいだ。


「怪しい奴め、何者だ」


強盗の中で1番体の大きな男が言いました。


「うーーん、強盗に言われましたよ。ジュラさん」


「えーー、私ですか?」


「そうなのじゃ。ジュラはあいつらの仲間に見えるのじゃ」


「まったく、何てことを言うのですかーー!! 私たちは怪しい者ではありません!! 冒険者です!! あなた達こそ何者ですか?」


「冒険者だと。なるほど、新品のFクラスのプレート、新人か。待てよFクラスに警備は出来ねえはずだが」


こいつ、もと冒険者か?

詳しいなあ。


「ルールが変って出来る様になったのです」


「ふむ、そうか。俺達は獣王会の者だ。いつも通り頼むぜ」


「なにっ、いつも通りってなんだ?」


「そうか、新人か。しゃーねえなあ。荷物運びの貧民のガキがいる。そいつらを捕まえて手柄にしろってことだ」


「なにっ!!」


「どうせ、そんなガキ共は生きていてもしょうがねえ。捕まえて俺達の代わりに死刑にすればいいって事だ」


「なにーっ!!」


「まだわからねえのか。さてはてめー、バカだな」


バカじゃねえ。

わかっている。その上で。


「意味はわかるが『納得が出来ねえー』と言っているんだ」


「あのなあ、段々ヒゲのおっさん! 俺達は獣王会だ。敵にまわさねえ方がいいって言ってやっているんだ。わかれよなー!」


「ジュラさん、獣王会は知っていますか?」


「はい。この街の三大マフィアの一つですわ」


ひーーっ!

よりによってマフィアかよ。

1番さわっちゃあいけない奴らだ。


「かしらー、商会の連中は皆殺しにしやした」


「うむ、金目の物は、全部運び出すんだ」


「もうやっていやす」


手下の言葉の後に、大きな袋を持ってヨタヨタとボロボロの服を着た臭い子供達が出て来た。


「さっさと馬車の荷台に積めーー! 段々ヒゲのおっさんよお、こいつらを置いていく、わかるだろ」


どうやら、ボロボロの服の臭い子供達を犯人にするつもりのようだ。

可哀想に。どこの世界でも底辺で生きる者が外れをひかされるようだ。

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