「デミル様、全員とらえますか?」
「うーーん、やめておきましょう」
僕は、また逃げた。
マフィアの男達の顔が滅茶苦茶恐ろしいからだ。
いや、それだけじゃない相手がマフィアということにもビビっている。
どうせ僕は、逃亡勇者だしな。まあこれでいい。
「ふふふ、話がわかるじゃねえか」
強盗のかしらが見下すように笑いながら言った。
「可哀想に、商会の人を皆殺しにする必要はなかったのでは?」
「ははは、本当におっさんは何にも知らねえんだな。商会は保険をかけているのさ。商品にも店員にもな! わかるか? 店員にもだ!」
「なんだって!!」
「むしろ、商会側から依頼されているのさ。これで俺達も商会もがっぽり儲かる。あんた達はガキを捕まえて、ギルドに差し出せばがっぽり儲かるというわけだ」
「ジュラさん、本当ですか?」
僕は驚いていた。
中世のようなこの世界に保険があることに。
「はい。商会の店員もきっと身分の低い者ばかりのはずです」
「損をするのは、身分の低い人達ばかりか。あとは、全員大もうけですか」
「じゃあな、あばよ! 段々ヒゲのおっさん。ひっひっひ、あんたとはまた会いそうな気がするな」
かしらと手下はそのまま逃げて行った。
残ったのは、ボロボロの服を着た垢だらけの汚い顔をした少年達だ。
みすぼらしい子供達は、自分がどうなるのかもわからないのか、ぼーっと突立っている。捕まえられて突き出されれば死刑だというのに。
ジュラさんは不思議そうな顔をして僕を見つめている。
どうする気なのかと興味津々のようだ。
「ジュラさん、お金を貸してください。必ず返します」
「はい。かまいませんが、何にお使いになるのですか?」
「一時的なお金など意味は余り有りませんが、この子供達にあげて欲しいのです」
「はい、金貨一枚ずつで良いのかしら」
ジュラさんは、お金を子供達に渡していきます。
「お金をもらったら、帰っていいぞ。もう自由だ」
僕がそう言うと、子供達はお金を受け取ると一目散に走って行った。
僕は、日本の海外支援を思い出していた。
日本以外の国はただお金を渡してお終いなのだが、日本はお金ではなく農業の技術などを支援していて最初は現地の人に嫌われている。だが、長い目で見るとその方がありがたかった。と、現地の人に感謝されているのを思い出していた。
僕はお金を渡して自己満足をしているだけじゃ無いのだろうか。
本当の支援とやらをしてあげたいものだ。
まあ、日本にいたときは自分が支援して欲しかった側でしたけど。
日本では、もちろんお金の支援のほうがうれしかったかな。
「さあ、僕達も帰りましょうか」
「待つのじゃ」
「シエンちゃん。どうしたのですか?」
「ほれっ!」
シエンちゃんの視線の先には、とびきり汚い少年が突立ったまま動こうとしない。
「この子、お金も受け取ってくれないのですよ」
「この年で、全ての希望を失ってしまっているのかも知れないなあ」
僕は、この年だから、生きる希望を失っても生きていけるけど、この少年は生きる気持ちが無くなっているようだ。「金をくれるなら、生きる希望をくれ!!」そんなことを言われているような気がする。
「どうしましょうか?」
「ふふふ、キルドに行きましょう」
「ええっ!? つきだすのですか?」
「いいえ、ご飯を食べさせてあげるのです」
「そうですか。でも、強盗を目の前で見逃したのでは、何を言われるのかわかりません。それどころか罪に問われるかも」
「大丈夫です。強盗が恐くなって逃げたと言えば良いのですよ。なんと言っても僕は逃亡勇者です。皆、納得するでしょう。僕はそう言われるのになれています。それにあいつら、獣王会と言いました。犯人の行方がわかっているのですから簡単です」
「あら、うふふ。デミル様は素直すぎますわ。あいつらが本当の事をいうわけがありませんわ。恐らく神獣王会か神獣会のどちらかですわ」
なるほど、ジュラさんは頭が良いなあ。
いや、僕の頭が悪すぎるのか。
そう思うとだんだん頬が熱くなっていくのがわかった。
「ごほん、いずれにしてもマフィアが相手では、末端など捕まえても意味がありません。一気に全滅させないと」
映画やアニメで見たマフィア組織は、スズメバチのようなもので、少しでも巣に危害を加えようものなら、あたり全体に見境なく襲いかかってくる。
下手に手を出すと、きっとジュラール家にも迷惑がかかるはずだ。
僕だけなら、神域の森に逃げ込めばどうにかなるが、ジュラさんやステラさんや他のメイドさんに危害が加えられるといけない。
慎重な行動が必要だ。
「さすがデミル様です。そこまでお考えだったとは」
えっ?? なにか、さすがなこといいましたっけ?
ギルドへ着くと汚い少年は、入れてもらえなかった。
だから、僕も中へ入らなかった。
おかげで、バカにされずにすんでラッキーである。
ギルドへの報告はジュラさんが済ませてくれた。
ご飯はジュラール邸までお預けのようです。
「ぎゃあぁぁぁーーっ!! デミル様よりくっさぁーーいぃ!!」
ジュラール邸に着くと開口一番ステラさんが悲鳴をあげた。
ステラさん、僕基準で臭さを表現しないでください。
服に虫が一杯いると言うことで、少年は外で水をぶっかけられて、野良犬のように洗われていた。
入浴と食事を済ませて睡眠に入った。
「デミル様、起きるのじゃ!!」
睡眠に入ったはずだが、すぐにシエンちゃんに起こされた。
でも、起きた場所は僕のボロアパートだ。
「デミル様! カツ丼へ行きましょう!!」
ジュラさんまでいます。
「せっかくですから、回転寿司へ行きましょう。カツ丼と同じ位美味しいですよ」
2人はカツ丼が食べたいようですが、僕は久しぶりにお寿司が食べたくなった。
「なっ!? 何じゃとー!! カツ丼と同じ位美味いじゃとぉー!!!!」
「こんなことは、していられません。すぐに行きましょう!!」
シエンちゃんとジュラさんが僕の手を引っ張ります。
――おおっ!! 少年までいる!!
僕達が部屋を出ると、少年が黙ってついて来た。
これは、とびっきり美味しい回転寿司にいかねば。
僕は、近所のアト○ボーイへ行く事にした。
100円回転寿司のお店だ。
今はつぶれて、別の店舗だがなぜか今日は営業している予感がする。
街には、人がいない。車道に車が1台も走っていない。
静かだ。
ゴーストタウンのようだ。
そう思っていたら、突然謎のコスプレ集団があらわれた。
「ジュラさんとシエンちゃん。目を合せてはいけません。危ない人です」
僕は、目を伏せてやり過ごそうとした。
「ステラ!!」
「ああ、ジュラ様、それにデミル様、シエン様も」
「えっ!?」
謎のコスプレ集団は、メイドのステラさんと美少女4人組のメイドさんだった。
「わたくし達も、カツ丼が食べたくて来てしまいました」
「今日は回転寿司です。カツ丼と同じ位美味しいですよ」
「それは残念。残念ですが、楽しみです」
お店につくと、お客は誰もいません。
店員もいません。
でも、美味しそうなお寿司が流れています。
席は、丁度全員が座れる席があります。
僕達は当たり前のようにその席につき、お寿司をおなか一杯食べた。
アパートに帰って眠ると。
「デミル様!! 朝でございます」
ステラさんが起こしてくれた。
僕のベッドに全員が眠っている。
ステラさんの口の端によだれが垂れている。
ステラさんもここで眠っていたようだ。