「あの、デミル様」
ステラさんが済まなさそうに僕に話しかけてきた。
「はい」
「せっかく、おなか一杯だったのに目が覚めたら空腹です」
「ふふふ、夢ですからね」
「うふ、そうですね。でも、もったいない気がします」
「ふふ。ところで、ステラさん。この世界では、夢とはこうやって皆で一緒に見る物なのですか?」
僕が質問すると、ステラさんがとても驚いた顔をした。
「あの、私はデミル様の近くで眠ったから、こうなったのだと思っていました」
なるほど、この世界の標準でもないということなのか。
では考えられることは一つです。
僕は、姿を消していても近くにはいるであろう大精霊を呼んでみた。
「森の精霊さん、大地の精霊さん。2人の知っている精霊の中に夢の精霊はいますか?」
「にょー!! あたちは知っているにょー! 夢ではないけど睡眠の精霊アルプがいるはずにょ。出てくるにょ!」
森の精霊が姿をあらわすと、その横に子猫の様な緑の猫耳幼女が現れた。
森の精霊を一回り小さくして幼くしたような感じだ。
でも、目が丸くてとても可愛い。いや、可愛すぎる。
「デミル様、ケト様、すみません。勝手についてきてしまいましたニャ」
ケト様?
そうか、森の精霊はケトという名前か。
「アルプ、あなたには、どんな力があるのですか?」
僕は、アルプに非常に興味がわいた。
「は、はいニャ。夢でいたずらする以外は、眠らせたり、あとは夢の中の物を現実に出したりできるだけニャ。」
「なっ、なんだってーーっ!!!!」
僕は驚いて大きな声を出してしまった。
「ひえーーっ! ごめんなさいニャ! ごめんなさいニャ!」
「ち、ちがうんだ。怒ったわけじゃない。驚いたんだ。アルプのすごすぎる能力に」
「何を言っているにょ。全然すごくないにょ」
「そうですニャ。すごくないですニャ」
「いや、いやいや、すごいよ。すごすぎる。夢の中の物を現実に出せるなんて」
まさか。飛行機とか戦車とかを出せるのだろうか?
「出せると言っても、1日で大銅貨1枚くらいの物しかだせないにょ」
「はい、そうですニャ。すごくないですニャ」
なるほど大銅貨1枚か。
それって、どの程度なのだろうか?
「ふふふ、ステラさん少し大きめのお皿を持って来て下さい」
僕は昨日の夢のお寿司を使って試して見ようと思った。
「は、はい?」
ステラさんは首をかしげながら部屋を出て行った。
部屋が少し騒がしかった為か、ジュラさんとシエンちゃんが目を覚ました。
そして、4人の美少女メイド、少年の順に目を覚ました。
「デミル様、お持ちいたしました」
ステラさんがお皿を持って来てくれた。
「じゃあ、そこに置いてください」
ベッドの横のサイドテーブルの上に置いてもらった。
「アルプ、この上に昨日の夢で見たお寿司。そうだなあ、穴子が良いなあ。出せるかい?」
僕は、マグロとか醤油がいるものではなく、そのまま食べられるものということで穴子にした。
「あんな、美味しい物が大銅貨1枚で買えるはずがありません」
ステラさんが驚いて言った。
「それは、どうかなあ。出せるだけ出してみてください」
「あの、はい。やってみますニャ」
皿の上には、お寿司が21貫と少し出て来た。
僕の夢の中では、お寿司は一皿2貫で100円だから、1060円くらいと言うことになる。ちなみに僕の夢の中ではハンバーガーは1個59円だ。値上がりはしない。
ということは大銅貨1枚1060円だ。いや、1000円で良いだろう。
つまり一ヶ月間に3万円分の夢で見た物がただで手に入るということなのだ。
僕一人なら、1ヶ月食費無しでいける。すごすぎる。
「すごーーい!! 本物のお寿司だーー!!!!」
ジュラさんとシエンちゃん、ステラさんと4人の美少女メイド、そして少年が言った。
「じゃあ、一人2貫ずつ、試食して見ましょうか」
「わあぁぁーー!! うまーーい!!」
全員が、すぐに口に入れてうれしそうに食べてくれた。
僕も食べた。久しぶりの本物の寿司は涙が出そうなほど美味かった。
「デミル様、鼻水がでています」
ステラさんが素早く拭いてくれた。
涙を我慢したら、鼻水になったようだ。
「くっくっくっくっくっ」
全員が笑うのを我慢している。
つぼだったようだ。
「あのジュラさん、ジュラさんならこのお皿の上のお寿司、全部でいくら位出してくれますか」
「そうですねえ。21貫全部で金貨1枚でしょうか」
「そう言えば、金貨1枚って大銅貨だと何枚ですか?」
「はい、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚です」
「えっ、えーーっ、金貨って10万円ですか。すげーー」
「あの、デミル様。残ったお寿司は、お爺さまに差し上げてもよろしいでしょうか?」
ジュラさんが、申し訳無さそうに聞いてきた。
「ええ、最初からそのつもりです」
「あ、ありがとうございます。ステラ、銀の最高級のお皿に移して、お爺さまの朝食にお出ししてください」
「はい、かしこまりました」
ステラさんは、大事そうに穴子のお寿司の乗った大皿を両手で運び出した。
「では、デミル様、さっさと準備を済ませて朝食にしましょう。すぐに来て下さいね」
ジュラさん達女性陣は部屋を出て行った。
残されたのは、僕と少年だけだ。
うん、居づらい。何を離せば良いのだろう?
僕は恐る恐る少年の顔を見た。
「えっ??」
僕は驚いて声が出てしまった。
少年の顔色がとてもいい。
目がキラキラ輝いている。
「あの、デミル様」
――少年がしゃべったあぁぁぁぁーー!!!!
僕はなんだかすごく感動している。
昨日は、もう死にたいというような、夢も希望も無いような顔をしていた少年が。
その少年が。
しゃべったあぁぁーーーー!!!!
おじさんは、もうそれだけでうれしいよ。
涙が出そうだよ。
そんな感動を押し殺して平静をよそおって。
「なんですか?」
と聞いてみた。
「昨日の、オレンジ色の宝石の様な物が乗った食べ物はなんと言うのですか?」
オレンジ色の宝石?
おおっ、わかった! いくらだ。
「いくらのお寿司です」
「いくら、いくらですか。本当においしかったです」
少年は空の向こうを見るように上を向いて、どこかを見つめている。
「ふふふ、また食べよう。またせてはいけない。少年いこうか」
「はい。あの、僕はイーリエールといいます」
「そうか、長いな、今日からはリエルだ」
「はい。リエル」
少年は、リエルという名をうれしそうに小さく繰り返した。
1階に行くと、メイド美少女4人に大きめの窓のある部屋に案内された。
「おおっ、デミル殿!!」
僕が部屋に入ると、爺さんがおあずけをくらっている犬のような顔をしている。
目の前には高級そうな銀の皿に2貫だけ穴子が乗っている。
あれ? 3貫ちょっとあったはずだけど。
どこかに消えたようだ。まあ、内緒にしておこう。
全員が席につくと
「さあ、食べましょう」
ジュラさんが言ってくれた。
じいさんが、僕を見てくる。
「じいさん、少ないけど食べてください」
僕がいうと、じいさんが待ちかねたようにお寿司をたべた。
「ぐはっ!! 美味い!!」
「お爺さま、マグロも美味しいのですよ」
ジュラさんが言った。
「エビです。生エビがおいしいです」
ステラさんが言った。
「いくらが美味しかったです」
リエルが言った。
「ななな、何じゃとそんなに色々おいしいのか。カツ丼だって食べておらんのにー」
じいさんまでカツ丼が食いたいようだ。
すげーいやな予感がする。
朝食を済ませると、僕達はギルドへ向った。