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0018 最高の精霊

「あの、デミル様」


ステラさんが済まなさそうに僕に話しかけてきた。


「はい」


「せっかく、おなか一杯だったのに目が覚めたら空腹です」


「ふふふ、夢ですからね」


「うふ、そうですね。でも、もったいない気がします」


「ふふ。ところで、ステラさん。この世界では、夢とはこうやって皆で一緒に見る物なのですか?」


僕が質問すると、ステラさんがとても驚いた顔をした。


「あの、私はデミル様の近くで眠ったから、こうなったのだと思っていました」


なるほど、この世界の標準でもないということなのか。

では考えられることは一つです。

僕は、姿を消していても近くにはいるであろう大精霊を呼んでみた。


「森の精霊さん、大地の精霊さん。2人の知っている精霊の中に夢の精霊はいますか?」


「にょー!! あたちは知っているにょー! 夢ではないけど睡眠の精霊アルプがいるはずにょ。出てくるにょ!」


森の精霊が姿をあらわすと、その横に子猫の様な緑の猫耳幼女が現れた。

森の精霊を一回り小さくして幼くしたような感じだ。

でも、目が丸くてとても可愛い。いや、可愛すぎる。


「デミル様、ケト様、すみません。勝手についてきてしまいましたニャ」


ケト様?

そうか、森の精霊はケトという名前か。


「アルプ、あなたには、どんな力があるのですか?」


僕は、アルプに非常に興味がわいた。


「は、はいニャ。夢でいたずらする以外は、眠らせたり、あとは夢の中の物を現実に出したりできるだけニャ。」


「なっ、なんだってーーっ!!!!」


僕は驚いて大きな声を出してしまった。


「ひえーーっ! ごめんなさいニャ! ごめんなさいニャ!」


「ち、ちがうんだ。怒ったわけじゃない。驚いたんだ。アルプのすごすぎる能力に」


「何を言っているにょ。全然すごくないにょ」


「そうですニャ。すごくないですニャ」


「いや、いやいや、すごいよ。すごすぎる。夢の中の物を現実に出せるなんて」


まさか。飛行機とか戦車とかを出せるのだろうか?


「出せると言っても、1日で大銅貨1枚くらいの物しかだせないにょ」


「はい、そうですニャ。すごくないですニャ」


なるほど大銅貨1枚か。

それって、どの程度なのだろうか?


「ふふふ、ステラさん少し大きめのお皿を持って来て下さい」


僕は昨日の夢のお寿司を使って試して見ようと思った。


「は、はい?」


ステラさんは首をかしげながら部屋を出て行った。

部屋が少し騒がしかった為か、ジュラさんとシエンちゃんが目を覚ました。

そして、4人の美少女メイド、少年の順に目を覚ました。


「デミル様、お持ちいたしました」


ステラさんがお皿を持って来てくれた。


「じゃあ、そこに置いてください」


ベッドの横のサイドテーブルの上に置いてもらった。


「アルプ、この上に昨日の夢で見たお寿司。そうだなあ、穴子が良いなあ。出せるかい?」


僕は、マグロとか醤油がいるものではなく、そのまま食べられるものということで穴子にした。


「あんな、美味しい物が大銅貨1枚で買えるはずがありません」


ステラさんが驚いて言った。


「それは、どうかなあ。出せるだけ出してみてください」


「あの、はい。やってみますニャ」


皿の上には、お寿司が21貫と少し出て来た。

僕の夢の中では、お寿司は一皿2貫で100円だから、1060円くらいと言うことになる。ちなみに僕の夢の中ではハンバーガーは1個59円だ。値上がりはしない。

ということは大銅貨1枚1060円だ。いや、1000円で良いだろう。

つまり一ヶ月間に3万円分の夢で見た物がただで手に入るということなのだ。

僕一人なら、1ヶ月食費無しでいける。すごすぎる。


「すごーーい!! 本物のお寿司だーー!!!!」


ジュラさんとシエンちゃん、ステラさんと4人の美少女メイド、そして少年が言った。


「じゃあ、一人2貫ずつ、試食して見ましょうか」


「わあぁぁーー!! うまーーい!!」


全員が、すぐに口に入れてうれしそうに食べてくれた。

僕も食べた。久しぶりの本物の寿司は涙が出そうなほど美味かった。


「デミル様、鼻水がでています」


ステラさんが素早く拭いてくれた。

涙を我慢したら、鼻水になったようだ。


「くっくっくっくっくっ」


全員が笑うのを我慢している。

つぼだったようだ。


「あのジュラさん、ジュラさんならこのお皿の上のお寿司、全部でいくら位出してくれますか」


「そうですねえ。21貫全部で金貨1枚でしょうか」


「そう言えば、金貨1枚って大銅貨だと何枚ですか?」


「はい、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚です」


「えっ、えーーっ、金貨って10万円ですか。すげーー」


「あの、デミル様。残ったお寿司は、お爺さまに差し上げてもよろしいでしょうか?」


ジュラさんが、申し訳無さそうに聞いてきた。


「ええ、最初からそのつもりです」


「あ、ありがとうございます。ステラ、銀の最高級のお皿に移して、お爺さまの朝食にお出ししてください」


「はい、かしこまりました」


ステラさんは、大事そうに穴子のお寿司の乗った大皿を両手で運び出した。


「では、デミル様、さっさと準備を済ませて朝食にしましょう。すぐに来て下さいね」


ジュラさん達女性陣は部屋を出て行った。

残されたのは、僕と少年だけだ。

うん、居づらい。何を離せば良いのだろう?

僕は恐る恐る少年の顔を見た。


「えっ??」


僕は驚いて声が出てしまった。

少年の顔色がとてもいい。

目がキラキラ輝いている。


「あの、デミル様」


――少年がしゃべったあぁぁぁぁーー!!!!


僕はなんだかすごく感動している。

昨日は、もう死にたいというような、夢も希望も無いような顔をしていた少年が。

その少年が。

しゃべったあぁぁーーーー!!!!

おじさんは、もうそれだけでうれしいよ。

涙が出そうだよ。

そんな感動を押し殺して平静をよそおって。


「なんですか?」


と聞いてみた。


「昨日の、オレンジ色の宝石の様な物が乗った食べ物はなんと言うのですか?」


オレンジ色の宝石?

おおっ、わかった! いくらだ。


「いくらのお寿司です」


「いくら、いくらですか。本当においしかったです」


少年は空の向こうを見るように上を向いて、どこかを見つめている。


「ふふふ、また食べよう。またせてはいけない。少年いこうか」


「はい。あの、僕はイーリエールといいます」


「そうか、長いな、今日からはリエルだ」


「はい。リエル」


少年は、リエルという名をうれしそうに小さく繰り返した。




1階に行くと、メイド美少女4人に大きめの窓のある部屋に案内された。


「おおっ、デミル殿!!」


僕が部屋に入ると、爺さんがおあずけをくらっている犬のような顔をしている。

目の前には高級そうな銀の皿に2貫だけ穴子が乗っている。

あれ? 3貫ちょっとあったはずだけど。

どこかに消えたようだ。まあ、内緒にしておこう。

全員が席につくと


「さあ、食べましょう」


ジュラさんが言ってくれた。

じいさんが、僕を見てくる。


「じいさん、少ないけど食べてください」


僕がいうと、じいさんが待ちかねたようにお寿司をたべた。


「ぐはっ!! 美味い!!」


「お爺さま、マグロも美味しいのですよ」


ジュラさんが言った。


「エビです。生エビがおいしいです」


ステラさんが言った。


「いくらが美味しかったです」


リエルが言った。


「ななな、何じゃとそんなに色々おいしいのか。カツ丼だって食べておらんのにー」


じいさんまでカツ丼が食いたいようだ。

すげーいやな予感がする。

朝食を済ませると、僕達はギルドへ向った。

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