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0019 重い信頼

ギルドの玄関を入ると、受付嬢のサイアさんが駆け寄って来ました。


「デミル様、ギルド長がお待ちです。応接室へ来ていただけますか」


「ああ、お断りします。警備の仕事がいそがしいので」


「そうですか。2階ですのでご案内いたします」


サイアさんのこめかみに血管が浮出してピクピクしています。

あーーっ、少し怒っていますねえ。


「ぷひゅっ」


ジュラさんが我慢出来ずに吹き出しています。


「失礼します。ジュラ様をご案内いたしました」


お断りしたのに無理矢理2階の応接室に御案内された。

しかも、僕じゃなくてジュラさんに御用のようだ。


「おお、すぐにお通ししてくれ」


「はい。では、デミル様、ジュラ様、シエン様、あと、あなたもどうぞ」


「ふふふ、サイアさん。その少年は、リエルです」


「ああ、はい。わかりました。リエル様もどうぞ」


応接室に入ると、貫禄のあるごつい体の髭面の初老のじいさんがいる。

どことなく、ディアムジュラールじいさんに雰囲気が似ている。


「おおっ!! お初にお目にかかります。ギルド長のメデュルです。どうぞこちらへ、おかけ下さい」


応接の椅子に座るようにうながされた。


「あの、どのような御用でしょうか? デミル様は警備の仕事でいそがしいのですが」


ジュラさんが椅子に座ると、不機嫌を演じながらすぐに聞いてくれた。


「おお、あなたがジュラさんですかな」


「はい。そうです」


やっぱり、用事はジュラさんのようだ。


「実は、出張から帰ってくると大変な事に、ゴーレムが壊されておってな。誰に聞いてもジュラ様に聞いてくれと言って、誰も答えてくれんのじゃ。ジュラさん何があったのか教えて欲しい。この通りじゃ」


ギルド長は、頭を下げた。

なるほど、冒険者には口止めがしてある。

全員、ちゃんと約束を守っているようだ。


「ああ、それでしたら簡単です。こちらのデミル様が素手で叩き壊しました」


うん、まあ事実ですが、素手は言う必要が無いと思います。


「なっ、なんじゃと!!」


ほらね。驚くと思いました。

ギルド長の驚く姿を見て、ジュラさんの覆面の下の小鼻がヒクヒクしています。

あーーっ! 楽しんでいらっしゃいますねー。

僕は、ジュラさんの事は良くわかるのですよ。


「どうぞ!!」


サイアさんがお茶を入れて持って来てくれた。

部屋の中に、紅茶に似たいい香りが充満した。

きっと、お高いお茶のはずだ。


「いい香りですね」


僕はティーカップを持って香りを楽しんで、サイアさんに笑顔で言いました。


「うふふ、ありがとうございます」


サイアさんがうれしそうに笑顔になった。

おそらく、サイアさんのお気に入りの茶葉のはずだ。


「うおっ!! ま、まさかそれは!??」


ギルド長が、ジュラさんの言葉で僕に関心を持っていたのでしょう、僕を観察して声を出しました。

視線が僕の剣にむけられている。

どっちの剣だろうか。


「これですか?」


僕は暗黒の剣は重いので、軽い勇者の剣を持ち上げた。


「ふむ、それが勇者の剣、そっちの黒いのは暗黒の剣。まさかあなたは」


「はい。僕があの有名な逃亡勇者のデミルです」


はーーっ、自分で言っていて情けない。


「なるほど、そういうことですか。わかりました。あーーっなるほど、それで警備ですか。ふふふ、さすがですな」


えっ!? このじいさん何かを勝手にわかっちゃったよ。

たぶん、それ、間違っていると思いますよ。


「うふふ、そうです。だから警備なのです」


ぎゃーーっ!! ジュラさんまでーー。


「ふふふっ、だから警備なのじゃ!」


うーーん、シエンちゃんは適当に言っているだけですよね。

……まさか、わからないのは僕だけなのですか?


「あの、なんのことですか?」


リエル君が聞いてくれた。

よかったよ、君がいてくれて。


「ふむ、君もデミル様と行動を共にするのなら、この位のことはすぐに理解しないとなあ」


えっ、そのデミル様が、何の事かわからないのですが。


「そうですよ」


ジュラさんまで。


「そうなのじゃ」


シエンちゃんまでわかるのですか。

でも、僕がわからないのですよ。


「仕方が無い、説明をしてやるかのう」


「はい、御願いします」


リエル君が興味津々です。

そして、僕は興味の無いフリをして興味津々です。


「ふむ、いま、このジュラール領は治安が非常に悪い。それは、巨大なマフィアが三つも有り、悪事の限りを尽くしているからなのじゃ。そこでデミル様は実力を隠し、少しずつ警備の仕事をしながらマフィアの力を奪い、最後は三つのマフィアをつぶしてしまう予定なのじゃ。素手でゴーレムを壊すほどの実力を持ちながら、逃亡勇者などと自分を卑下し、実力を隠すのは中々出来る事ではない」


えーーっ!!

マフィアをつぶすなんて考えていませんよ。

出来れば近寄りたくもありません。


「そ、そうだったのですね。そうか、そして僕達みたいな浮浪児を全員助けるつもりなのですね。さすがはデミル様です」


まあ、浮浪児は助けたいとは考えていますよ。僕は底辺生活者の味方です。でも、だからって、マフィアをつぶすなどと恐ろしいことは考えていません。いやまじで。


「それに、暗黒剣を持っているということは、魔王候補になられたということじゃ。ジュラール家は魔王の10傑の一人。2年後の魔王選出の儀に出馬すると言うことであろう。そうであろう、ルドジュラール殿」


えっ!?

今、なんて??


「うふふ、お見通しでしたか」


ジュラさんが顔を包む布を外した。

布を外したジュラさんは赤い顔をしている。

えっ?? どういうこと?


「なるほど、それもあって、実力を隠しておられるのですな。どおりで、冒険者どもが何も言わないわけじゃ。どうせ、デミル様の実力をばらせば殺すとでも言ったのであろう。ふむ、デミル様が実力のある魔王候補とバレれば、暗殺者に命を狙われるかも知れない。これは、大変じゃ」


「えっ、何が大変なのですか?」


うん、さすがリエル君だ。良い質問だ。


「ふふふ、強いことを隠したまま、マフィアをつぶさないといけないと言うことじゃ。これはなかなか、難しいことじゃぞ。まあ、安心してくれ。ギルドとしては何の援助も出来ん。マフィアの力はこのギルドより上じゃからなあ。下手をすれば冒険者共々皆殺しじゃ。マフィアは貴族に大量の献金をしている。下手に手を出せば領主様とても失脚のおそれがある。どうじゃ大変じゃろ」


「ううっ、た、大変すぎます」


リエル君は優秀だねぇ。すぐに理解出来たようだ。


しかし、これは本当に大変だ。僕には無理だな。

もうこれは大人しくしておくしかないな。


「はあぁーはっはっはっ!! そんなことは大変な事にはならない! なにしろデミル様なのじゃからなあ!!」


「そうです。可哀想なのは、マフィアの方です。なにしろデミル様なのですから!!」


うわぁ、何なんだろう? シエンちゃんとジュラさんのこの信頼はーー!!

どうしようかなあ。

マフィアとは、僕一人で戦うということになりそうだ。

そんなの無理に決まっているだろう!! 僕はただの底辺おじさんだぞーー!!


――できるかぁーー!!


いっそ、神域に逃げだそうかなぁ。


「さすがはデミル様です!!」


リエル君が目をキラキラ輝かせて僕を見つめます。


――はぁーっ!


子供の期待の目はまぶしすぎるなあ。

まあ、実のところ、僕にも自分の実力が規格外だとは、薄々わかって来てはいるんですけどねえ。

どうしても、ビビッちまうんだよなあ。

まあ、急ぐ必要はないし、ぼちぼち実力の範囲でやっていきますか。

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