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0020 怒り

応接室を出ると、受付はいつものようにジュラさんがやってくれている。

僕とシエンちゃんとリエル君は、ギルドの食堂のテーブルに座って受付が終わるのをよい子で待っている。


――さて、何から手を付けたらいいのだろうか?


確かに日本にいた頃、アニメや漫画のファンタジーは好きで良く見ていた。

僕にあんな力があればいいなあ。うらやましいなあー。などと思っていた。

でも、実際はそうは簡単では無いことがわかった。

恐そうな顔のおっさんなんか、まともに顔も見られやしない。

恐いんだ。とてつもなく!

勇気も無ければ度胸もない僕には、アニメの主人公なんかはとても無理だ。

ありゃあ、アニメや漫画の中でのことなのだ。

そんな情けない僕が、どうやって情けないまま、この状況を解決すればいいんだーー!!


「終わりました」


ジュラさんが受付を済ませて戻ってきた。


「じゃあ、行きましょうか」


僕は席をたって、ギルドの出入口の扉の方に歩きだした。


「はい」


ギルドの外に出ると、4人で街の巡回の開始だ。

少し視線を動かしたら、ギルドの斜め前のこぢんまりとした建物の看板が目に入った。


「ジゴルタ保険。あれは保険屋さんですか?」


僕は建物の前で立ち止まってジュラさんに聞いてみた。


「はい。それがどうかしましたか?」


予想外に小さい建物だ。

待てよ、あの小さな保険屋さんが、保険金をだまし取られているんだよなあ。

商会とマフィアが結託して保険金詐欺をしている。

余計なお世話かも知れないが可哀想だから教えてやろうと思った。


「ちょっと、保険屋さんに寄りたいと思います。よろしいですか?」


「もちろんです。デミル様のお好きになさってください」


ジュラさんの小鼻がヒクヒクしている様に感じる。

気のせいだろうか。


「お邪魔します」


僕は、保険屋さんに入ると声を掛けた。


「はい!! ……ちっ!!」


少し吊り上がったメガネを掛けた。吊り目のやせたスーツ姿の男が僕に返事をして、ジロジロと上から下まで見ると舌打ちをした。


――な、なんだこいつ!


「あの」


すこしムッとしたが、もう一度話しかけた。


「邪魔をするなら帰ってくれませんかね。こっちはいそがしいんだ」


「あっ、はい」


僕は、余りの冷たい言い方にすんなり180度回転して後ろを向いた。


「……じゃねーんだよ!!」

「ぷくくく」


僕が言うと同時に、ジュラさんとシエンちゃんとリエル君が吹き出した。


「あんたじゃ、話にならない。責任者をだしてくれ!!」


い、いかん。

余りにも頭にきたので言葉が荒れてしまった。

それにしても人を怒らせる天才かー、このインテリメガネ。


「ちっ!! 糞がっ!! てめーみてーな下級冒険者の相手をするほど暇じゃ無いんだ。出ていけっ!!」


くそー、Fクラスのプレートを見たのか、下級冒険者と来たもんだ。


「えーー、重要な話があってきました。責任者を出して下さいませんか」


僕は心を落ち着かせて、もう一度今度は丁寧にたのんだ。

荒い言葉使いでは、相手も不快になり丁寧な対応は出来なくなる。

これで大丈夫だろう。


「はぁーっ!! てめーはバカか! この私が責任者だ!! お前らみたいなFクラスのカス冒険者と、はなす程落ちぶれちゃあいないんだ! とっととかえれ!! この糞バカがっ!!」


「底辺冒険者ごときが、保険屋さんの責任者様にお声をかけてしまい申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」


「二度と来るなバカが!!」


「くーーっ!!」


僕は結構我慢強い方だと思うのだが、さすがに頭にきた。

それでも、怒りを噛みしめながらお店の外に向った。


「ぷっくっくっくっ、すごい支配人でしょ。あれで、お金持ちには猫なで声で気持ち悪い位なんですよ」


お店を出ると、ジュラさんは吹き出しながら言った。

ジュラさんはこうなる事が最初からわかっていたようだ。


「まあ、頭に血がのぼったおかげで1つ名案が浮かびました」


「えっ? それはどのような」


「ふふふ、それは、見てからのお楽しみということで」


「そうですか。それは楽しみです」


「まずは、商会の並ぶ、上級国民街へ行きましょう」


この街は、区画で上級国民と下級国民に明確に分けられている。

商会の並ぶ区画は当然上級国民の区画にある。

上級国民の商会にもあいさつで顔を出したが、そのどれもが保険屋のインテリメガネと同じ対応だった。

下級冒険者の相手などまともに出来ないようだ。

ふふふ、上等。これでいい。


「うわああぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」


商館から悲鳴だ。

本当に治安が悪いなあ。

声のする方へ走った。


「おお、今日は間に合ったみたいだ」


まだ、賊は商館の店員を殺す前だった。


「なんだてめーは」


前回と同じがらの悪い男達と、ボロボロの服を着た子供達だ。

おかしらのような体のでかい髭面の男が、荷馬車の横で僕をにらんでいる。


「僕達は、Fクラスの冒険者です」


「ちっ! 最低クラスの冒険者かよ。こんな所に出てくると命を落とすぜ。とっとと消えな!!」


「と、言われましても、このまま帰ればギルド長に怒られます。せめてケガの一つでもさせてもらわないと」


「なにっ??」


「ふふふ、取引ですよ。見逃す代わりに、数発殴ってもらってケガをさせてください。と、御願いしているのです」


「なるほどなあ、わかった」


おかしらが腕を振り回しながら、ニタニタ笑って僕の方へ来ました。


――ふーーっ、やっぱりこえーー!!


でも、殺されるわけでは無い。


「あの、なるべく痛くないように、軽く御願いします」


「ああ、なんだ、そうか。そういうことか」


おかしらは、なんだかつまらなそうな顔になり、僕の肩を拳で軽く押した。

恐い顔をしている割にはやさしい、おかしらだった。

ぜんぜん痛くない。

よかった。


「ぐわあああああああああああぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


僕は、勢いよく吹き飛んだ。

後の商館数件の壁を突き破り、建物を支える大黒柱を狙ってへし折りながら吹飛んだ。

どの柱も、神域の岩と比べれば発泡スチロールのように柔らかい。

並んでいる数件の商館の壁も柱もへし折った。

突然砲弾の様な物が飛び込んできた商館はパニックに成り、働く人達は外に逃げ出した。

そして、僕は反対の路地に出ると、素早くおかしらの元へ走ってもどった。


「おいおい、でーじょーぶか?」


「はい、もう一度御願いします」


「ふ、ふむ」


おかしらは、首をかしげながら、もう一度肩を押してくれた。


「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


また、大げさに吹き飛び商館に飛び込んだ。

柱を全部失った商館がガラガラと音を立てて崩れだした。


「すげーー、商館が次々崩れていく」


おかしらは、少し楽しくなってきたようだ。


「では、今度はこっちの方へ、押してください」


「よしよし、これでいいか」


おかしらが、また軽く押してくれた。やさしい。


「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」


僕は再び吹き飛んだ。

ついでに、商館以外の立派な建物にも飛び込んで破壊した。


「す、すごい」

「ぎひひっ! すごいのじゃーー」


ジュラさんとシエンちゃんが驚いている。

数回続けると、このあたりの上級国民様の建物が怪獣に踏み潰されたように全てくずれ落ちた。

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