「あの、デミル様。とてもすごいのですが、いったい何をしているのでしょうか?」
僕が満足そうにしているとジュラさんが聞いて来ました。
「ふふふ、ジュラさんでもわかりませんか?」
「は、はい。わかりません」
僕は少し嬉しくなって、鼻の穴がヒクヒクした。
あーいけない、ジュラさんのやつがうつってしまった。
「では、説明いたしましょう」
僕は少しもったいぶって、すぐに説明には入らずジュラさんの美しい顔をじっと見つめた。
「はい」
ジュラさんは、返事をすると少しほおを赤くしてうつむきました。
すっげー、メチャメチャかわええー。
だが、僕がそんなことを考えているとは、さとられないように真面目な顔をして説明をはじめた。
「まず、僕は警備のために巡回をはじめました。すると、強盗を発見します。僕はギルドで警備の仕事を受けていますので、巡回で強盗を発見したら当然捕まえなくてはなりません。ですが、僕は新人のF級冒険者です。強盗の方が当然強い。だから、ジュラさんが見ていた通り、殴られて吹飛ばされて痛めつけられていたのです」
ジュラさんがハッとした顔になりました。
さすがはジュラさんです。
すぐに理解してくれたようです。
「なるほど、さすがはデミル様です。…………まっ、まさか、そんなことまで、いえ、それだけじゃ無いですよね。ああ、そうですか。そこまで深く考えて……なるほど。なっなるほど。さ、さすがはデミル様です」
えーーっ!!
また、ジュラさんは何か考えついたみたいです。
僕は保険に入っているであろう商館を壊して、保険会社にお金を支払わせてやろうとしただけです。
本当に狭量なせこい仕返しを、保険会社の支配人にしてやろうと考えただけです。おそらくジュラさんの考えているような深い事は考えていないですよ。
「あのー、ジュラさん――」
僕は、深い考えがないことを伝えようとした。
「わかっています。わかっていますとも。それならデミル様、この方向にも吹飛ばされないと」
ジュラさんは、まだ壊れていない町並みを指さした。
「お、おかしら、今度はこっちへ御願いします」
僕は、もうジュラさんの言うとおりにしようと訂正するのをあきらめた。
「へ、へい」
んーっ、なんだかおかしらの様子がおかしい。
やたら素直だし、少し震えているようにも感じる。
「あー、デミル様。この方向にはジュラールのお屋敷もあります。そこだけは壊さないでくださいね。他は全部壊してくださって大丈夫です」
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
僕はおかしらに押されると勢いよく飛んで、建物を壊していく。
途中で勢いが無くなると、何度も足で勢いをつけて壊していく。
この区画は、商館が終わると貴族のお屋敷が続いた。
そこも、ドンドン壊した。
だって、ジュラさんが壊せっていうんだもーん。
警備の私兵みたいなのが驚いていたけど、気にせず壊した。
街の防壁につくと、また大急ぎでもどって、この区画もジュラール邸を除いて全部破壊した。
「ああっ! そうですわ。この区画にはマフィア獣王会があります。ここの区画も全部破壊しましょう」
「おかしら、今度はこっちにたのむ」
「へ、へい!!」
このころになると、おかしらの目は死んだ魚のような目になり、ガタガタ震えている。
さすがに、マフィアと聞いておびえているのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい、僕はもうやけくそになっていた。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
マフィア獣王会のある区画も全部破壊した。
「今度はこちらですわ。マフィア神獣会があります。全部やっちゃいましょう」
「じゃあ、おかしら。今度はこっちだそうだ」
「へ、へへ、へ、へい」
おかしらが、もう涙ぐんでいる。
やっぱり、マフィアがそうとう恐いらしい。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
おかしらが素直に優しく押してくれたが、僕の勢いはドンドン激しくなった。
何度も戻るのが面倒臭いのと、このころになると、建物の中の人が全員避難していてくれるので一撃でなるべく壊したかったのだ。
「さあ、こんどはこの区画です。ここには神獣王会があります」
「だ、そうだ。おかしら、景気よく又たのむ」
「……」
おかしらは、もう、ほぼ顔は泣き顔になっている。
うなずくだけで、返事も出来ないようだ。
「ぐわああぁぁぁぁーーーー!!!!」
僕は、竜巻の様に両手を広げて建物を破壊しながら移動する。
おかげで、2往復でこの区画はつぶしおわった。
「ぷふっ」
「ぎゃははははーー」
ジュラさんとシエンちゃんが爆笑している。
「ど、どうしたのですか?」
僕は2人が笑っている理由がわからない。
「だって、ほら、見てください」
僕が振り返ると、城塞都市の北東の区画が領主ジュラール邸を除いて全部破壊されている。
都市のほぼ4分の1が、がれきになっている。
上級国民の建物はこれでもう何も無い。
「あーっ、あなた達はもういいわ」
ジュラさんがおかしらに言うと、強盗団は一目散に逃げて行った。
残されたボロボロの服を着た子供達には、ジュラさんが金貨を渡している。
渡し終わると、子供達も一目散に逃げていった。
リエル君のように、残る子供が今回はいなかった。
皆、帰る先があるのだろう。
リエル君は、逃げる子供達の背中をじっと見つめていた。
「さあ、ギルドへ報告にもどろうか」
子供達の姿が見えなくなってから、僕はリエル君に言った。
リエル君はなぜか笑顔でうなずいた。
「サイアさん、今日も強盗には逃げられました。僕達は強盗に痛めつけられただけでした」
ギルドの受付嬢に今日の報告をした。
「そうですか。報告ご苦労様でした」
強盗を捕まえればお金がもらえるのでしょうが、手ブラではお金はもらえないようです。
せちがらいですね。
「では」
いつも報告をジュラさんに任せっぱなしなので、今回は僕が報告してみた。
意外と、失敗しても叱られない。思っていたより簡単だった。
まあ。そうか。
そのかわり、報酬も頂けませんからね。
そのあと、ジュラさんとシエンちゃん、リエル君と合流してジュラール邸へ戻った。
ジュラール邸で入浴と食事を済ませてから、明日にそなえて就寝した。
「はやく起きるのじゃー!!」
恐ろしく高速で体が揺さぶられる。
目を覚ますと。
「あー、また、僕のボロアパートだ」
そう、目を覚ますと、そこは夢の中だった。