「この狭い部屋に何人いるんだよ!!」
せまいボロアパートの一室に、全員勢揃いだ。
「くふっ」
ジュラさんが、僕の顔をのぞき込んで美しい顔で微笑んだ。
体を揺さぶっているのは、美少女のシエンちゃんだ。
そんなに揺さぶったら、夢でもよっちまうだろうがー!
「なんだよー。今日はじいさんまでいるのかよぉ」
ジュラさん、シエンちゃん、リエル君、ステラさん、美少女4メイドの後に、じいさんが良い笑顔で立っている。
「わ、わしだけ仲間外れはずるいのじゃ」
言い方はシエンちゃんみたいだが、じいさんが言ってもかわいくはない。
「しかたがないですね。では、出かけますか」
「あの、デミル様。今日はどこへ行くのですか」
玄関を出ると、ジュラさんが僕のすぐ横に並んで聞いて来た。
「ふふっ、今日はディスカウントスーパーです。底辺生活者の御用達ですよ」
「ディ、ディスカウントスーパー!!!!」
全員の声が綺麗にそろった。
きっと聞いた事のない単語なんでしょうね。
そのむかし近くにあった、ディスカウントスーパーをイメージしている。
昔は大繁盛していたお店だ。
他店よりも必ず、1円は安かった。
消費期限の近い商品は投げ売りされていた。
カップメンやジュースなどは、消費期限などを僕は気にしないから大量に買っていたなあ。
2リットルの炭酸飲料が百円で売っていた。
リボンなんとかという透明のサイダーのような飲み物だ。一杯買い込んで毎日飲んだっけ。
後は、売れなかった外れ商品なんかもあったなあ。
意外とうまくて、はまっても生産中止で買えないのはかなしかった。
「さて、ここにしましょうか」
ここは、僕の夢の中だ。
若い頃の思い出のディスカウントスーパーだって開店します。
ボロアパートのすぐ近くに本日オープンです。
「おおっ!!」
目の前にあらわれたディスカウントスーパーに全員の目が輝いている。
「では、入りましょう」
店に入ると、まずは野菜と果物が並んでいる。
「す、すごいです。見た事も無いものばかりです」
ジュラさんが、色とりどりの果物を見て驚いています。
「美味しいですよ。おすすめはシャインマスカットです。これです」
僕は1つぶ取って、ジュラさんの口に入れてあげた。
「ふふぁっ、あ、甘いです。お、おいしーい」
その言葉を聞くと全員が、シャインマスカットに群がり、はげたかのように食べ始めました。
「ここは、僕の夢の中です。自由に食べても大丈夫です。おおいに楽しんでください。シエンちゃん、リエル君、オルパちゃん、モルチェちゃん、メルノちゃん、ネイラちゃん、皆はチョコレートがどこかにあるから探してみてください。とてもおいしいですよ」
子供軍団には、チョコレート探しという宝探しのゲームでも楽しんでもらおう。
子供達は目を輝かせて走りだした。
「うわあぁー! からい、からいのじゃーー!!」
じいさんが3個入り、98円のタマネギを袋から出してかじって涙まで流している。
よりによって、タマネギをかじるかなあ。
「じいさん! これは煮たり焼いたりして食べる野菜だ。カレーに入れると滅茶苦茶美味いんだ」
「カレーとな?」
「おおっ!! じいさんでかしたぁー!! そうだぁー!! 材料を集めればカレーが食える。アルプの力があれば本物が食える。朝飯はカレーだーー!!」
そうと決まれば、材料を1000円分で用意してみよう。
僕はカートを持って来て、タマネギと人参、ジャガイモを放り込んで、カレールーをみた。
うむ、蜂蜜が溶けている奴が特売で、128円で売っている。
こんなもんだったよなあ。なつかしい。
給料が変らんのに、物価があがったからなあ。
カレーもおちおち食べられない。
ご飯だって食べられない。
こっちに来る前の主食は、88円の食パンだったよなあ。
あと必要な材料はお肉だ、合い挽きが100グラム78円、五割引のシール付きがある。
うむ、これだけあれば、十分作れるな。
「あの、何をしているのですか?」
ジュラさんが、左手にシャインマスカットを1房持って、右手でもぎ取って食べながら聞いて来た。
「朝ご飯にカレーを作ろうと思いまして」
僕は、カレールーの箱を見せた。
甘口と書いてあるカレールーだ。
やっぱり、カレーは甘口が1番だ。
「美味しそうですね」
「飛びますよ。ふふふ」
「まあ」
「あったぁーー!! ありましたぁーー!!」
「この声はリエル君ですね。元気で楽しそうないい声だ」
僕は声の方へのんびりとむかった。
「そうですね。デミル様も、とてもうれしそうです」
「えっ? そうですか?? そうかもしれませんね。あの子は、あの年でひとりぼっちですから、心配していたのです」
「うふふ、それを言ったら、家のメイドはみんな、一人ぼっちですよ」
「えっ? ステラさんもですか?」
「はい、この国は一人ぼっちが多いですわ。すべて人間のせいです」
うっ!
最後の言葉を言ったとき、ジュラさんの瞳に憎悪の炎が見えた気がしました。
でも、シャインマスカットを一粒口に入れると、幸せの表情に変りました。
「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
シエンちゃんの悲鳴です。
「ど、どうした!?」
僕は、心配でお菓子コーナーに向かいながら声を出していた。
「うまいのじゃあぁーーーー!!!!」
シエンちゃんが、チョコレートを口一杯に入れすぎて、口の回りがネチョネチョです。
それだけではなく、手も服も床もネチョネチョです。
4人の美少女メイドもシエンちゃんと同じ状態です。
「ひええぇぇーー!!」
さすがの、ジュラさんも悲鳴を上げました。
「デミル様、これはおいしいですね」
リエル君は、ひょっとすると育ちが良いのかも知れない。
行儀良くすこしずつ食べている。
「君も、シエンちゃんと同じようにしてもいいんだぞ」
「ええぇぇーっ!?」
リエル君はとても嫌そうな顔をした。
同じ子供でも、あれは嫌なようだ。
「こっちに来てごらん」
リエル君はチョコレート、ジュラさんはシャインマスカットを手にしたままついて来た。
僕はお菓子コーナーから、スイーツコーナーへ移動した。
ショートケーキや、シュークリーム、エクレア、プリンがある。
「わあぁー!!」
リエル君と、ジュラさんの瞳が輝いた。
「おすすめは、シュークリームとプリンだな」
僕が一つシュークリームを食べて見せた。
生クリームとカスタードクリームが2層になっている奴だ。
夢の中なので、生クリームは大量に増量しておいた。
2人とも僕の真似をして、一口食べた。
「おいしーーい!!」
2人がスイーツコーナーを楽しんでいると、茶色のベチョベチョ軍団がやって来てスイーツコーナーをベチョベチョにした。
じいさんとステラさんが静かだと思ったら、2人して惣菜コーナーで弁当をむさぼっていた。
カツ丼やお寿司、フライにたこ焼きを食べていた。
せっかく楽しんでいるので、皆をそのままにして僕は目覚めてカレーを作りたいと思っている。
「アルプ、僕が起きるとこの夢はどうなるのかな?」
「ニャ! この夢はもうアルプが記憶しましたニャ。デミル様が起きてもそのまま維持できますニャ」
緑の猫耳幼女のアルプが、姿を見せてくれた。うん、かわいい。
「じゃあ、皆はこのまま夢を楽しませてやってほしい。僕は目覚めてカレーを作るので、さっきのショッピングカートの中の物をサイドテーブルに出して置いてくれないか」
「わかりましたニャ」
僕は、アルプの頭を優しくなでた。
アルプは目を細めてうれしそうにしてくれた。猫のようにかわいい。