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第2話

「では、サービスとして今お手合わせしてさしあげましょうか?」

「ほう、それは金を払わなくていいってか?」

「ええ、構いませんよ。もし私が負けた場合は、半額サービスでご依頼提供とさせていただきます」

「いや、それよりも俺はお前の1日を貰う。これまで侮辱を受けてきたこっち側としてはそれぐらいのことをしてくんねぇと割に合わねぇんだよ」

「そうですか。では、条件を飲みましょう。手合わせの場所はどこになさいますか?一応このギルドの下に手合わせ場がありますが――」

「場所は選ばねぇのが冒険者だ!」


 ディファナが提案を言い終わる前にリーダー格の男が背中から斧を抜き、そのままの勢いで振り下ろし斬りかかって来た。


「そうですか。その好戦的な態度は、尊重致しましょう」


 ディファナは左手の肘で受け止めるように構えた。


「何!?」


 まさか腕だけで受け止めてこようとするとは思っていなかったのだろう、男は驚愕の表情を浮かべていた。その反応にディファナは、青いな、と感じていた。勿論、斧を避ける選択肢が無難であるだろう。しかしディファナの背後には仕事机があり、そこには大量の重要書類や重要物がある。もし机を真っ二つに切られたのならば、引き出しにしまってある道具たちも全滅だ。ギルドの受付嬢としてその損害だけは絶対に避けたいディファナは、突き出した左肘をそのままにぐっと拳に力を入れた。


 刹那、肘の部分からヌンチャクが突如飛び出し斧に巻き付いた。


「な、なんじゃこりゃぁ!?」


 予想外すぎる武器の登場と、ヌンチャクに絡まれたことで斧の軌道を強引にずらされてしまった男は悲鳴を上げた。

 そして、斧の切っ先はディファナの足から少しずれた床にドスンと突き刺さった。


「女性の服というものは武器を非常に隠しやすいものです。それは毛皮を纏う魔物も同じ。私のように、どこにポケットがあるか分からないよう服を作りこみ、様々な仕込み武器をご用意しています。そうすれば、見た目で強さを判断するような敵は、一瞬にして私の手にやられてしまうのです。ね、効率的でしょう?」


 混乱している男に懇切丁寧な説明を述べながら、ディファナは谷間からぴっと小刀の切っ先を取り出すと上空に放り投げ、数回転させたのちに柄の部分をぱしんっと綺麗に掴み構えた。


「そういうわけでして、チェックメイトです」


 左手はヌンチャクにより斧を無力化し、右手には小ぶりのナイフで喉元に切っ先をつきつける。


「こんなの、反則だろっ」


 一瞬で決着がついただけではなく、あっさり負けてしまったことを認めたくないのだろう。リーダー格の男は茹でタコにでもなりそうなほど顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。リーダーがこんな調子のパーティにはとある、あるある行動というものがつきものである。

 すぐにそれを察したディファナは左手と右手の力を緩めないまま、右足を振り上げ、茹でタコ男の頬をかすめるように突き出した。そして、今にも襲い掛かろうと武器を手にかけはじめている男たちへつま先を向けた。


「討伐依頼に関して反則なんてものはありません。冒険者というものはいつ何時なんどきでも対応できるようにしておくものです。というわけでして、わたくしのつま先から出ている毒針がお見えになっているのでしたらそれ以上動くのはお控えになった方がよろしいですよ。なんせ、わたくし、毒を作るのが好きなんですよね。毎日どんな効果が出る毒になるのか、こうして冒険者様方に試すのが非常に好きなんですよ。そのせいでよからぬ噂がたってしまったようですが……どういたしましょう?わたくしの毒、召し上がってくださいますか?」


 その言動を聞いた途端。


「「「失礼します!!」」」


 そう言って、後方に居た男たちはそれはそれは真っ白になりそうなほど青ざめて背中を向けると慌てて去っていき、リーダー格の男を置いて行ってしまった。


「あらぁ……どうします?」


 ぽつんと1人置いてかれてしまった、いや、逃げ遅れてしまったリーダー格の男にディファナは視線を落とす。

 武器が拘束されていれば逃げられないのは当たり前であるが、このように置いてけぼり状態になってしまうことは想定していなかったのだろう。


「こんなの……あんまりだ」


 半分泣きべそをかきはじめた情けない筋骨隆々の男に。


「まぁ、ちゃんとした手続きをして頂ければこちらも手出しはいたしません。ので、本日は一旦お帰り頂き、また今度ご依頼の方をご検討いただければと思います。……よろしいですか?」


 ディファナの言葉に。

 男は声を発することなく涙目でコクコク頷き、ディファナが武器への拘束を解いてあげると一目散に扉から逃げ出していった。



「はーあ。相変わらず護衛がいがないねぇ、ディーちゃんは」


 背後から聞こえた声に振り向くと、これまでの戦闘を観戦していたのだろう。高価な鉄鎧に身を包んだ騎士がつまらなそうにテーブルの上に肘をついてディファナを見ていた。


「仕方ないですよ。僕はこういう人です」


 仕事モードから一変、プライベートモードに戻った彼女は、そう答えた。








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