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第4話 僕らの青春

 地獄から蘇った後。姫に支えられる形で、授業が始まるギリギリに戻った僕。

 教室に戻ると、そこには殺伐としたクラスメイトたちが。

 特に僕と同じ同盟の皆が、血気盛んに武器を構えていた。


『柊‼ お前、遂に姫柊さんと一線を越えたらしいな?』

『やっちゃうよ‼ やっちゃうよ‼ キルっちゃうよ‼』

『ケツから定規か。液体のり一気飲みか。もしくは紙で作った制服で、雨の日登下校か』


 最初から僕の処刑は決定事項らしい。

 既に皆、各々の提案する処刑方法を決めていた。

 それにしても。


「なんでまた捕まってるのさ、敵徒‼」

「あいつの弁当を食べているところを見つかった」


 苦悶の表情を浮かべる敵徒。

 僕は迷わず、その悪友に脱いだ上履きを投げつけた。


「危ねぇだろ‼ 何しやがる‼」

「それはこっちのセリフだよ! きさきちゃんの手作り弁当だなんて‼」

「作ったのはほとんど、俺だぞ‼ あいつはふりかけを掛けただけだ‼」

「だとしても‼ 女の子……自分を好きでいてくれる女の子のお弁当は特別なんだ‼」


 僕にとっては姫のお弁当が、それに値する。

 そして敵徒にとっては、許嫁の妃ちゃんのお弁当だ。

 でも僕は断じて、それを認めない。

 というか、普通に嫉妬の対象だ。


「皆、僕も協力するから。まずはあの幸せ者を始末することから始めよう」


 僕は支えられていた姫の手から離れると、敵徒の処刑に加わろうとした。

 すると、冷たくも暖かく皆が僕を迎えてくれる。


『流石はクズの中のクズ。やっぱりお前は俺たちの仲間だ』

『これが終わったら、次はお前の処刑だ。でもそれまでは同志だぜ』

『一緒にあのカスを始末しようぜ。それでその後は、お前の始末だ』

「み、皆……やっぱり僕の処刑は決定事項なんだね?」

『『『当然だ。この違反者筆頭が』』』


 友情を再確認できたはずの同盟の仲間たち。

 その全員が同時に、僕を罵ってきた。

 僕が敵徒を始末しようと、駆け出そうとした時。

 僕の手を誰かがギュッと掴んだ。その手は微かに震えていて。


「待ってください‼」


 声がした方を向くと、そこにはキッと僕を睨みつける姫の姿が。

 その表情は怒っているとも、どこか悲しそうとも捉えられて。


「どうしたの? 敵徒の処刑なら、女子は参加する必要――」

「緋色君に聞きたいことがあるんです」


 姫のつぶらな黒い瞳が、僕のことを真っ直ぐにみつめていた。

 そこには確かな強い感情があって、流石の僕も無視することなんてできない。


「緋色君にとって。妃ちゃんっていう女の子は、どういう存在なんですか‼」

「え? 妃ちゃんは僕の妹の友達で。僕にとっては心の中の妹みたいな――」

「でも、その女の子と仲良くしてる敵方君に、すごく腹を立てていますよね?」


 もしかして僕、今浮気を疑われてる?

 そうだとしたら、完全な誤解だよ。

 妃ちゃんも僕も恋愛相談ぐらいならするけど、少なくてもそういう関係じゃないし。

 お互いに絶対、お互いが恋愛対象にならない。

 そうわかり切ったうえでの関係だもの。


「落ち着いて姫。僕が敵徒を敵視するのは当然のことなんだ」

「それはつまり、敵方君が許嫁さんと仲良くしてるから――」

「違うよ。それにそれだと、僕が敵徒を好きみたいじゃないか」


 僕が敵徒と妃ちゃんの関係を認めない理由。

 それは。


「僕はね。あのバカが素直に、妃ちゃんを『好きだ』って認めるまでは。どうしても腹が立っちゃうのさ。妃ちゃんのお兄さん的立場としてね。それに僕が女の子として好きなのは、ずっと姫だけだよ。それはたぶん、今までもこれからも変わらないんじゃないかな」


 僕の言葉を聞いて、唖然としていた姫を僕は優しく遠ざける。

 そして僕も同盟のバカ騒ぎに加わった。

 逃げる敵徒を追いかけたり。

 姫派の同盟仲間に命を狙われたり。

 そんな感じで、今日も僕らの青春は過ぎていく。


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