地獄から蘇った後。姫に支えられる形で、授業が始まるギリギリに戻った僕。
教室に戻ると、そこには殺伐としたクラスメイトたちが。
特に僕と同じ同盟の皆が、血気盛んに武器を構えていた。
『柊‼ お前、遂に姫柊さんと一線を越えたらしいな?』
『やっちゃうよ‼ やっちゃうよ‼ キルっちゃうよ‼』
『ケツから定規か。液体のり一気飲みか。もしくは紙で作った制服で、雨の日登下校か』
最初から僕の処刑は決定事項らしい。
既に皆、各々の提案する処刑方法を決めていた。
それにしても。
「なんでまた捕まってるのさ、敵徒‼」
「あいつの弁当を食べているところを見つかった」
苦悶の表情を浮かべる敵徒。
僕は迷わず、その悪友に脱いだ上履きを投げつけた。
「危ねぇだろ‼ 何しやがる‼」
「それはこっちのセリフだよ!
「作ったのはほとんど、俺だぞ‼ あいつはふりかけを掛けただけだ‼」
「だとしても‼ 女の子……自分を好きでいてくれる女の子のお弁当は特別なんだ‼」
僕にとっては姫のお弁当が、それに値する。
そして敵徒にとっては、許嫁の妃ちゃんのお弁当だ。
でも僕は断じて、それを認めない。
というか、普通に嫉妬の対象だ。
「皆、僕も協力するから。まずはあの幸せ者を始末することから始めよう」
僕は支えられていた姫の手から離れると、敵徒の処刑に加わろうとした。
すると、冷たくも暖かく皆が僕を迎えてくれる。
『流石はクズの中のクズ。やっぱりお前は俺たちの仲間だ』
『これが終わったら、次はお前の処刑だ。でもそれまでは同志だぜ』
『一緒にあのカスを始末しようぜ。それでその後は、お前の始末だ』
「み、皆……やっぱり僕の処刑は決定事項なんだね?」
『『『当然だ。この違反者筆頭が』』』
友情を再確認できたはずの同盟の仲間たち。
その全員が同時に、僕を罵ってきた。
僕が敵徒を始末しようと、駆け出そうとした時。
僕の手を誰かがギュッと掴んだ。その手は微かに震えていて。
「待ってください‼」
声がした方を向くと、そこにはキッと僕を睨みつける姫の姿が。
その表情は怒っているとも、どこか悲しそうとも捉えられて。
「どうしたの? 敵徒の処刑なら、女子は参加する必要――」
「緋色君に聞きたいことがあるんです」
姫のつぶらな黒い瞳が、僕のことを真っ直ぐにみつめていた。
そこには確かな強い感情があって、流石の僕も無視することなんてできない。
「緋色君にとって。妃ちゃんっていう女の子は、どういう存在なんですか‼」
「え? 妃ちゃんは僕の妹の友達で。僕にとっては心の中の妹みたいな――」
「でも、その女の子と仲良くしてる敵方君に、すごく腹を立てていますよね?」
もしかして僕、今浮気を疑われてる?
そうだとしたら、完全な誤解だよ。
妃ちゃんも僕も恋愛相談ぐらいならするけど、少なくてもそういう関係じゃないし。
お互いに絶対、お互いが恋愛対象にならない。
そうわかり切ったうえでの関係だもの。
「落ち着いて姫。僕が敵徒を敵視するのは当然のことなんだ」
「それはつまり、敵方君が許嫁さんと仲良くしてるから――」
「違うよ。それにそれだと、僕が敵徒を好きみたいじゃないか」
僕が敵徒と妃ちゃんの関係を認めない理由。
それは。
「僕はね。あのバカが素直に、妃ちゃんを『好きだ』って認めるまでは。どうしても腹が立っちゃうのさ。妃ちゃんのお兄さん的立場としてね。それに僕が女の子として好きなのは、ずっと姫だけだよ。それはたぶん、今までもこれからも変わらないんじゃないかな」
僕の言葉を聞いて、唖然としていた姫を僕は優しく遠ざける。
そして僕も同盟のバカ騒ぎに加わった。
逃げる敵徒を追いかけたり。
姫派の同盟仲間に命を狙われたり。
そんな感じで、今日も僕らの青春は過ぎていく。