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第22話 焔と風磨

「よし!それじゃ、俺から始めよう!」


 天狗が元気に言うと、その姿勢に志郎は少し驚いたが、緊張がほぐれるのを感じた。


「俺の名前は、風磨だ。俺は天気を操る霊峰様の従者だ!先ほども言ったが雨を降らせる事もできるし、風を起こす事だってできる!ちなみに少年に神果を食べさせたのは俺だ。感謝してくれよ!」


 志郎は礼をしながら小さく拍手をするのを忘れなかった。


 風磨の自己紹介に続いて、オオカミが口を開いた。


「我の名は焔。山に住む動物たちの世話をするのが私の役目であり、霊峰様から授かった使命だ」


 その間も変わらず志郎を見る目は鋭かった。


「それだけじゃ、ただの動物の世話焼きしてるだけだと思われるぞ!」


 風磨が焔に向かって笑いながら言った。


 焔はひと呼吸置いてから面倒臭そうに答えた。


「炎を出すのも霊峰様から授かった私の力だけ。育ちすぎた木は他の植物の害になる。定期的に燃やす必要がある」


 そう言って焔が見せる鋭い牙には火花のようなものが散っていた。


「次は貴様だぞ。村頭の後継で、それが嫌になって逃げ出そうとし、狐にたぶらかされた少年」


 そう言いながら焔は志郎を鼻で指す。


「すでに紹介するまでもないじゃないか・・・・・・」


 志郎は心の中でその思いを留めた後、口を開いた。

「僕の名前は志郎といいます。知っての通り村頭の後継として生きてきました。そんな責務も、他にも・・・・・・すべてが嫌になり、逃げ出したくなりました。その後狐に出会い、狐の言葉を鵜呑みにし、霊峰様の水晶玉を盗んでしまいました。僕は反省しています。後悔しています。霧が晴れることも、霊峰様が弱ってしまうことも僕は望んでいませんでした。知らなかったでは許されないことだとも分かっています。僕は自分のことしか考えていませんでした・・・・・・」


 ここまで言って志郎は一息ついた。ここまではすでに目の前の二人の従者は知っていることだ。この先が大事だと志郎はわかっていた。


「僕は取り返したい!僕が狐に渡してしまった霊峰様の大切な水晶玉を・・・・・・そのやり方は分からないけど、このままでは霧が晴れた村の人は怯える日々が続いてしまう。僕が知らない顔できるわけない。自分の過ちを正したい!!」


 自分の言いたいことが言えたあと、焔の目をじっと見つめた。見つめ返したと言うのが正しい。目を伏せたい気持ちを必死に我慢した。数秒その状態が続いた中、狼がため息を吐いた。


「すらすらとそれっぽいことを並べていたが、結局自分の過ちを帳消しにしたいだけじゃないか!!」


 焔の鋭い言葉に志郎は返す良い言葉が見つからなかった。その通りなのかもしれない。ただ僕は自分の罪悪感を紛らわしたいだけなのかもしれない・・・・・・それでも・・・・・・俯いていた顔をあげしっかりと焔の目を見つめ返した。


「焔さんの言う通りかもしれない。結果的には自分のためなのかもしれない。それでもいい。僕は村を救いたい!」


 志郎の言葉に、焔は一瞬目を細めたが、少しだけ穏やかな表情に変わったように感じた。その変化に、志郎は安堵を感じた。


「ふん、まぁいいだろう。わたしは貴様の本音を聞きたかっただけだ」


 焔が言葉を紡いだ。


「自分の罪を認め、それに向き合う覚悟を見せた。それは評価に値する。だが、半身を取り戻すのは簡単なことではない。狐は狡猾であり、姿を隠している。狐に対面するのは難しいだろう。お前一人ではな・・・・・・」


「だが、心配するな!そんな村人の助けに答えるのも我々従者に与えられた使命だ!そうだろ?焔」


 風磨が口を挟んだ。

 諦めたような顔つきで焔頷いた。


「我らが協力してやる」


「本当にありがとうございます。僕がんばります。霊峰様の水晶玉を取り戻します!」


 志郎は彼らの言葉に心からの感謝を表した。


「まずは狐の居場所を探る必要があるなー」


 風磨が黒く長い髪を掻きながら言った。


「まだ自分の神社にいるんじゃないんでしょうか?」


「まぁ、そうだろうな、けれど、あやつのいる神社がどこにあるのか我々は知らない」


 焔の言葉の後、なかなか会話が続かなかった、志郎も足りない知識のなかから必死に解決策を考えた。


「霊峰様に会うことはやはり難しいのでしょうか?」


「我々が知らないことも霊峰様なら知っておる。だが、霊峰様に会うためには順序が必要だ。霊峰様に会うのもまた困難だ」


「それはどういったことでしょうか?」


 志郎は問わざる得なかった。


「霊峰様がお休みになられている場所はここよりもずっと標高が高く、今の坊主では無理だ」


「それでは、僕は霊峰様にお会いできないということですか?」


「それは違う。坊主は神果を食べただろう?霊峰様に認められることが出来れば坊主は従者になれる。従者の身体を得れば肉体的には問題ないだろう。坊主はまず従者にならなければならない。それを前提にまだ足りないのだ」


 従者になるというのは姿形も目の前の2人のように人間離れしたものになるのだろうか?そんな身体で村に戻れるのだろうか?そんなこと今はどうでもいい。全て終わった後にまた考えればいい。どんなことでも受け入れる覚悟でここに来たはずだ。


「我々ですら霊峰様に直接お会いしたことがない。我々から霊峰様の指示なしで御拝顔に向かうことは許されていない。それ故に霊峰様に会うための案内役を授けられた従者を見つけなければならない」


「その従者がどこにいるかわからないのですか?」


 答えが知りたい思いを伝えるべく志郎は風磨を見つめた。


「あやつの事は知っているが、今どこにいるのか分からない。もう何百年も会っていないからな。村の中に紛れ込んでいるとおもうのだが」


 天狗の回答に焔が口を挟んだ。


「我は奴が好かん。とにかくいけすかん奴だ、霊峰様に近い存在だからといって我らをあからさまに見下している」


「まぁそういうな焔、俺も奴は好かんが、今はそう言ってもいられない」


 そういいながら、風磨は宥めるようにしたのか焔の顎の下を撫で始めた。その後の展開は察した通りだった。


「私に無断で触るな!馬鹿者!殺してやるわ!!」


 焔は風磨に飛びつき、風磨の顔に燃える牙を突き立てようとしている。


「馬鹿、馬鹿、やめろ」


 両手で焔を自身の身体から引き剥がそうとしているものの顔は必死の形相だが、どこか楽しそうにも見えてきた。


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