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第33話 霊峰霊地

 2人は霊峰台地に向かうことにした。


 行き方は霊峰神社の鳥居を越えるだけだ。一瞬にして、目に映る光景は変わり、彼らは広大で神秘的な雰囲気が漂う霊峰台地に立っていた。


 少しだけまた息ができなくなるのではないかと怖かったが、もう以前とは志郎は変わっていて、この標高の高さでも何の問題も感じなかった。


「焔と風磨は一緒に来なくてよかったんですか?彼らも霊峰様に会いたいと思いますけど・・・・・・」


「彼らには村に残ってもらったよ。もしかしたら村に外の連中が懲りずに襲撃にくるかもしれないからね。それに多分霊峰様が彼らと直接会うことは望んでいないと思うんだ」


 たしかに、奴らが村を襲うことを諦めたとは限らない。霊峰様からしても志郎に直接会う理由はあっても焔や風磨に会ってやる理由はないのかと知れない。それでも長年自身のために村を守ってきた焔や風磨に会ってやろうとは霊峰様は思わないのだろうか?少し疑問に思えた。


「焔と風磨は霊峰様にお会いしたいと思っていると思います」


 口に出さなくていい事だとは分かっている。


「霊峰様に会えばその理由も分かるよ。それにその、もしものために焔達には村人の護衛をお願いしているんだ。彼らには村に残ってもらう必要があるんだよ。まぁ焔は最後まで不満気だったけどねー」


 へらへらと笑いながら早川先生は言う。


「焔と風磨とはどんな関係なんですか?」


 志郎は気になっていた。焔と風磨はなんだか早川先生のことを嫌っているし、早川先生も焔達のことを馬鹿にしている感じだ。


「優秀な先輩と不出来な後輩だよ。あっちなみに僕が先輩ね!」


「どういう意味ですか?」


 志郎は早川先生の焔への言い回しに苛立ちを覚えた。焔は確かに頑固なところはあるけれど、強い正義感をもったいい奴だと思っている。


「焔と風磨はいうなれば不完全な従者だからね!あの2人もね、もともとは人間だったんだ。ただ、従者にはなれたけど、僕や志郎君ほど霊峰様から力を貰えなかった。だから従者の力を授かった時に、人間の姿を保てず、与えられた能力に則った姿に変化したんだよ。焔はもともと自尊心の高い奴だからね。そういう所で僕の事が気に食わないんじゃないかなー??僕は焔のことけっこう好きなんだけどね!だって可愛いじゃない犬って!」


 焔が早川先生を好かない理由が今の話で分かった気がした。それにしても驚いたのは焔と風磨が人間だったなという話だ。彼らと話が滞りなく可能な理由が分かった。


「それで、霊峰霊地にはどのようにいくのですか?」


 志郎から本題を切り出した。先を急がなければならないのは間違いなかったが、これ以上、従者達の確執を知る必要もないと思ったからだ。


「そうだね、まずはあそこに見える霊峰様の祭壇まで歩こう」


 そういい、2人は祭壇まで特に何も話さず一定の距離感で歩いた。


「あー、本当になくなってる」


 わざとらしく驚いた様子で空っぽになった祭壇やわ指差してにやついている。本当は霧を張るための水晶玉が置かれていたはずだった。それも霊峰様の半身という大切なもの。


「僕の過ちです。必ず取り返します」


 力強く志郎は答えた。


「そうしてもらわないと困るよ!霊峰様も僕らもね!」


 志郎は早川先生の言葉に真剣な表情を浮かべ、深く頷いた。


「霊峰様がお休みになっている霊峰霊地はあっちの方だよ」


 早川先生が指を差す方向を見ても、何も見えなかった。清し清しいほど青々とした空が広がっているだけだ。


「あそこだよ、よく目を凝らしてごらん。小さい島のようなのが見えない?」


 志郎は言われた通り目を細めて、早川先生が指を差す場所を正確に見ようと頑張った。


「本当だ。なにかが浮いてる・・・・・・」


 見えたのは本当にちっぽけなものだった。島とは認識できない。


「あれが、霊峰霊地だよ」


 志郎の想像超えていた。標高がここより高いといっても浮いている場所が目的地とは思っていたなかった。あんなところどうやっていけというのだろう。


「やっぱり風磨を連れてくるべきだったのではないでしょうか?」


 風磨だったら空を飛べる。


「無理だよ、風磨が飛べるのは鳥と同じ高さまでだよ。どれくらいだろうね、風魔が飛べるのは山の木の少し上くらいまでだよ」


「では、どうやってあそこまで行くんですか!」


 なかなか答えをいわない早川先生に少し苛立ってきた。


「そのために僕がいるんでしょ?」


 そういうと、霧が早川先生を覆うように現れ、ゴキゴキと不気味な音を立てながら、早川先生の影はみるみると大きく、そして長くなった。


「え?」


 あまりのこ出来事に志郎は言葉を失った。


 霧が徐々に薄まり、早川先生だった者の姿があらわになる。


 その姿に志郎はその姿に息をのんだ。先ほどまで早川先生が立っていた場所に巨大な生物が霧の中から現れたのだ。


 彼の体は、細長く、しなやかで、蛇のようにうねっていた。その背には、華やかな白銀の鱗が並び、光の下でキラキラと眩しく輝き、神秘的な雰囲気を漂わせていた。頭部は威厳に満ちており、長く伸びたヒゲが顔を彩っていた。その目は奥深く、潜ませた力を感じさせる。


 その巨大な生物は空高く飛び立ち、空中で身体全体を見せびらかすように軽やかに舞った。頭から尾にかけての流れるような曲線美に見惚れてしまう。


 そして、見下ろすように空から志郎に顔を向け、大きな口を開いた。


「驚かせてごめんね。これが僕が霊峰様から与えられた本当の姿なんだよ。大きくて恐いよね。こうしないと霊峰霊地にはいけないからしょうがないね」


 その声、言葉遣いは早川先生のものだが、より深く、重厚な響きを持っていた。


 この大きな生き物は、志郎の側に降りてきて、地面に身を低くして志郎に自らの頭に乗るよう促した。志郎は戸惑いながらも、強靭そうなツノに捕まるようにして登った。


 早川先生はゆっくりと身を上げ、空に向かって舞い上がった。その動きは滑らかで、周囲の景色はたちまち遠くなり、彼らは高く、さらに高く空へと昇っていった。


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