龍太郎の父親との会話は志郎の思い描いた結果に落ち着いた。
きっと凛さんも仁さんも不自由なく暮らすことができるだろう。元村頭の子としての責務は終わった。あとは自分の責任を果たすだけ。その大きな一つをこれからやっと果たすことができる。
志郎は広場を立ち去り、学び舎につながる脇道に入っていった。
学び舎が見える場所には例の立て看板がある。
なにか狐の神社の名前について手掛かりを探したが、ボロボロの看板にはかすれた『狐』の文字だけははっきりとしていて、霊峰様のいう通りなにか続きが書いてあったようだがどんなに目を凝らしても狐以外の字は読み取ることが出来なかった。
もはや帯に差されている刀だけを信じるしかない。霊峰様はこの刀が狐の元まで導いてくれると言っていた。だがどのようにつかえば、狐の神社の道が開かれるかは教えてくれなかった。
自分で考えろというのか?霊峰様と話している時はなんとなくできる気がしていたが、結局のところ志郎は不安でいっぱいだ。
やはり霊峰様を叩き起こしてでもしつこく聞いておくべきだったか。何をしたらいいのか分からない。
とにかく黒い渦があった山のふもとまで行ってみることにした。黒い渦が見えたのが全ての始まり。
学び舎と反対側の道を進み、志郎が以前雑草をかき分けて作った道を進んだ。その間、鞘に収まった刀の柄の部分をぎゅっと握りしめて何か起こるように願いを込めていた。
山のふもとについた。当然近くによっても黒い渦は現れない。
「狐!開けてくれ!また君に会いたい!そして、どうか水晶玉を返して欲しい!」
志郎の言葉を空を切り何の声も帰ってこない。
半ば諦めていた。狐はきっと自分の声が聞こえていても道を開けることはないだろう。けれど半ば希望があるとすればこの刀。
志郎は改めて握っている刀をみて驚いた。
柄にキツく巻かれ血で汚れた包帯が、志郎がぎゅっと握りしめていたからなのか緩んでいた。
志郎は鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりと包帯を解いていった。包帯が解けるにつれ、柄には何か刻まれていることが分かった。
狐らしき刻印の下に文字が刻まれている。長い間包帯に巻かれていたためか柄に損傷はなく文字は読めるものだった。志郎はつぶやくようにゆっくりと文字を読む。
「九尾の守りの神社」
その瞬間、刀が微かに震え始め、鞘から抜いてくれと刀に言われている気がした。
志郎は躊躇することなく鞘から抜く。その瞬間、周囲には軽い霧が立ち上り、空気がひんやりと変わった。
そして、志郎の前に霧に少し霞んだ石畳の道が現れた。志郎が握る刀の先端がまるで何かに引かれているかのよう目の前に現れた道の先を指し始めた。
この道が狐の神社につながっているのだろうか。
刀を握りしめ、一歩一歩、霧の中を石畳に沿って進んでいった。
彼の心は緊張でいっぱいだったが、刀が指し示す方向に従いながら、彼は深く呼吸を続け、周囲を注意深く観察した。霧は徐々に濃くなっていく。
歩き続けるうちに、霧の中からぼんやりとした青い光が見え始めた。きっと水晶玉の光だ。その光は徐々に明るくなり、ついには一つの神社の姿が現れた。
志郎は刀を握ったまま、ゆっくりと神社に近づいた。鳥居をくぐり、神社の境内に足を踏み入れると、境内には幻想的な静けさが満ちており青い光が全てを照らしている。
青い光の光源には求め続けた姿があった。