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第28話 結ばれた二人

 「胡蝶…やっと君を見つけたよ」

 「一郎さま…胡蝶はずっと一人で戦ってきた…あなたに会う夢だけを信じて!」


 二人は抱きつくと、胡蝶は一郎の唇に口づけ、そのまま畳に押し倒す。覆いかぶさる胡蝶の瞳から流れ出る涙が一郎の顔も濡らしていく。お互いに涙を溢れさせながら、口を吸い合う。


 しばらくして、ようやく胡蝶が口を離して、「これは夢なのよね?」と聞く。


 一郎は「夢かもしれない。でも今夜の夢は、十一年前からの現実うつつと全部繋がっているんだ」と答え、「僕は十一年前と一年前、新月の夜のことを聞いたんだ」と言うと、胡蝶は一瞬息を呑み、「すべて?」と少し困ったように微笑む。


 一郎は胡蝶の目をまっすぐ見つめ、「君の身体のことも聞いたよ。でも、僕はその時、はっきりと思ったんだ。僕は胡蝶と絵について語り合いたい。それ以外のことはことだって」と嘘偽りのない笑顔で返す。


 この言葉を聞いた瞬間、胡蝶は全身から力が抜けるのを感じた。長年、心の奥底に押し込めていた苦しみや自己否定が、その一言で溶かされていくかのようだった。


 瞳にまたぶわっと涙を溜めた胡蝶は、「私はあなたのことをずっとずっと、恋して、いえ愛してきました。一人きりだった私にとってあなたは光だったの」と声を震わせながら言う。


 一郎は「それは僕にとっても、どうでもいいこと、ではないね」と照れくさそうに答える。


 胡蝶は「私はもう我慢しない。あなたと一つになりたい」と言うと、一郎の下半身に手を添えて、自身の陰陽の陰に導く。


 一郎は急に動揺して「ぼ、僕は女の人とそういうことをしたことがないんだ」と顔を赤らめる。


 胡蝶は「そんなことはことよ」と優しく、しかし揺るぎない声で言った。


 束ねていない胡蝶の黒髪が一郎の鼻をくすぐる。一郎の鼻孔に懐かしい花の香りがふわりと広がっていく。

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