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第5話 光の言葉 (中編)


【ゾルティス連合、ダークヘイヴン】


 黒い岩の街がざわめいていた。

 星霧の祝祭。市場は種族を越えた賑わいに包まれている。


 獣人の露店では子供たちがリンゴを奪い合い、エルフの音楽が空に響く。

 この街は、地球よりも種族が混ざり合っていて、ずっと温かい。


「……あの子たち、今どうしてるかな」


 レイラは、ふとアメリカの孤児院で笑い合った後輩たちを思い出した。

 そして、ゆっくりと塔へ歩き出す。


 遠くにそびえる尖塔。

 あれが破られれば、ダークヘイヴンは終わる。


「それだけは、絶対にダメ……」


 カルヴァス――黒いローブの指導者――の言葉が脳裏をかすめる。


「アストラルドの罠だ。忘れなさい」


 でも、心の奥でざわめく何かがある。

 間違っている。そんな気がしてならない。


 市場の端で、ヴェルザンディの声が耳に届く。


「祭壇の秘密、そろそろですね。封印の鍵は召喚者。彼女にはしっかり働いてもらいましょう」


 隣で、ゾルティス協議会委員長・レイドックが嗤う。


「レイラは戦略の鍵だ。地球? もう関係ない。我々の栄華のために尽くしてもらう」


 関係ない……?

 地球が関係ないって、帰れないってこと?

 そんなの、聞いてないよ……。


       ***


【アストラルド、監視塔】


 昼間、俺は地下の資料室にいた。

 リリアナに連れられて。


「祭壇の歴史を知れ」と言われたけど、埃まみれの古文書しかない。


 その中で、一冊の表紙が目に留まった。


 《比翼の混沌》――30年前、召喚者が封印を破ろうとした事件。


 「灰と炎に包まれた渓谷」


 また、「灰」だ。あの核兵器の紙が頭をよぎる。


 リリアナが静かに口を開く。


「祭壇は、魔力を安定させるだけじゃない。……禁じられた力を封印している。だが、それ以上はお前が知る必要はない」


 またそれかよ。

 興味だけ引いて、何も教えない。俺って、ただの駒か?


 その時だった。塔が揺れる。


 渓谷の向こう、白い光が走る。

 鋭く、まるでレーザーのようだ。


「攻撃しろ、ツバサ! ゾルティスが動いた!」


 リリアナの叫びに、俺はタブレットへ飛びつく。

 ゲームのコントローラーみたいに、指が自然に動く。


 CIWSが唸り、光の矢を放った。


 黒い霧が押し寄せてくる。

 また、あのノイズが頭をかすめる。


 「信じるな……裏切れ……」


 気持ち悪い魔法だ。

 でも、指は止まらない。


 索敵モードを魔術に切り替え、最大火力を選ぶ。

 魔石がある限り、弾は尽きない。まるでゲームだ。


 光の弾が霧を切り裂く。


「……やったか?」


「違う。ただの牽制。ゾルティスは本気じゃない」


 リリアナが肩を落とす。


 あの光信号の相手が、これを仕掛けた?


       ***


【夜・ダークヘイヴン】


 レイラは塔に立っていた。

 祝祭の灯りが、街を星のように照らす。


 手元の信号レバーに、そっと触れる。


 5回、点滅。

 静かに、慎重に。


 返事はない。


 カルヴァスの声が蘇る。「アストラルドは敵だ」


 でも、本当に?

 彼女はレバーを握り直す。


 7回、短く不規則なリズムで。


 「You……friend?」


 星がまたたくように、信号を送る。

 息を止めて、対岸を見つめた。


       ***


【アストラルド、監視塔】


 7回の点滅が目に入る。


 不規則なリズム。だけど、何か知ってる。

 モールス信号……? いや、英語だ!


 「You……friend?」ってことか?


 マジか。ちょっとテンション上がる。


 昔、ゲームでフレンドと英語でやりとりしたことがあった。

 裏切られたけど、楽しかった。


 一度くらいなら――。


 俺はレバーを握り、8回点滅で返す。


「Yeah……friend!」


 すると、向こうからも光が返る。


 3回……え? ズレてる?


 思わず笑いそうになる。

 不器用だけど、なんか……いいじゃん、こういうの。


 その時だった。渓谷の奥で白い閃光が爆ぜる。


 別の場所からの攻撃。


 タブレットを見ると、いくつかの兵器が勝手に稼働していた。

 索敵モードが自動で反応したらしい。


 黒い霧と白い光がぶつかり合う。

 まるで戦争。


 テレビで見たドローン攻撃の映像を思い出す。

 画面越しに無表情で戦う兵士たち。


 ……今の俺と、同じじゃん。


 霧の向こうにいるのは誰だ?

 光を送ってきた奴? それとも……俺と同じ、駒か?


 リリアナの言葉が胸を刺す。


 「騙されるな」


 さっきのやり取りが、罠だったとしたら?

 信じた俺が、甘かった?


「クソ……騙されてたまるか」




 今日の夕食:鮭の塩焼き定食(日本)


 香ばしく焼けた皮がパリッと音を立てる。

 ほかほかの白ごはんに、脂ののった鮭がよく合う。


「やっぱり日本食は最高だな!」



(第1章 第6話に続く)


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