*ネタバレに関するご案内*
この「ルクセリオンの歴史と『星霧の祝祭』」は、物語の背景を概観するものです。一部、物語の鍵となる出来事や設定が含まれるため、ネタバレを気にされる方は飛ばして本編からお楽しみいただけます。ただし、ここを読むことで、魔法と科学の衝突やルクセリオンの運命をより深く理解できるでしょう。さあ、どの道を選びますか?
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このルクセリオンは、魔法文明が高度に発達した惑星であり、かつては栄華を極めていた。
その中の一派が多次元屈折魔法を開発し、異なる次元から人間種、つまり「異世界人」を召喚したことが、すべての始まりである。
異世界人の召喚に最も積極的だったのは、アストラルド帝国の中でも特に進歩主義を掲げた集団――ゾルティスである。
彼らは異文化の知識と技術を取り入れることで、自らの文明を飛躍的に進化させようとした。
やがて彼らは、物質を異世界から転移させようとしたが、失敗に終わった。
そこで、より確実な方法として、異世界の技術者や学者を召喚し、ルクセリオンの地で文明を「再現」させる計画が始動した。
最初こそ、ルクセリオンの人々はその技術に驚嘆し、好奇心を抱いた。
しかし次第にこう思うようになる――「魔法があれば、何でもできるのでは」と。
その結果、異世界人の技術と存在は忘れ去られ、歴史の片隅へと追いやられていった。
だが、ゾルティスは諦めなかった。
ついには、異世界人ですら忌避していた“ある領域”に手を伸ばす。
――そう、兵器である。
最初は弾丸、次いでダイナマイト、ミサイルと発展し、
最終的にはこの世界の理にそぐわぬ存在――ニュークリア・ウェポン(核兵器)にまで至った。
それにかかった時間は、わずか50年足らずである。
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星刻暦8080年。
ゾルティスの反旗
圧倒的な火力を手にしたゾルティスは、アストラルド帝国からの独立を宣言し、同時に宣戦を布告。
当初は「異世界兵器など、魔法の前では無力」と侮られていたが、その認識はすぐに覆される。
ニュークリア・ウェポンが初めて実戦投入された日、1万の兵士と100万の民が一瞬で灰と化した。
その光景は後世、こう語り継がれた。
「まるで神々の怒りが地上に降り注いだようだった」
アストラルドの調査により判明したのは、ニュークリア・ウェポンには「魔無核」と呼ばれる物質が使用されており、それが魔法体系への干渉を完全に遮断していたということだった。
障壁魔法も妨害術も、ことごとく無力だった。
魔法は、核兵器の前では壁ですらなかった。
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停戦とその代償
やがて戦況はゾルティス有利に傾き、アストラルド帝国は追い詰められる。
その最中、ゾルティス側から突如として停戦の申し出がなされる。
理由は明かされなかったが、どうやら新兵器の開発中に事故が発生し、多くの死者が出たという。
さらに彼らは、停戦に応じなければ「現存する全てのニュークリア・ウェポンを起動し、ルクセリオン全土を灰にする」と脅迫してきた。
アストラルド帝国は内紛の末、やむなく停戦を受け入れる。
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星刻暦8082年
星霧の祝祭
二年にわたる戦争の果てに交わされた停戦協定。
それは両陣営の広大な領土を焼き尽くし、再び緑の芽吹くことのない“不毛の地”を生み出した。
この日、星刻暦8082年。
両陣営は、再び争いを起こさぬよう誓いを立て、後にこの日を「星霧の祝祭」と呼び、皮肉にも祝うようになる。
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停戦協定の条件
停戦協定において、アストラルド側から二つの条件が提示された。
第一条:ニュークリア・ウェポンの完全封印
ゾルティスは、すべての兵器の稼働を停止し、両国の境界に広がる峡谷の地下へと搬送した。
そこに魔法結界と技術封鎖を施し、兵器を完全に封印すること。
だが、なぜかこれらの兵器を「永遠に」封じることはしなかった。
封印には魔無核を用いた特殊技術が採用されており、再び兵器を起動するには、双方の「封印鍵」が必要という構造となっている。
鍵は二つに分割され、ゾルティスとアストラルドがそれぞれ片方を保持。
いずれか一方が単独で封印を解除することは不可能とされた。
第二条:異世界兵器技術の設計書提供
ゾルティスは、異世界から持ち込まれた兵器群の設計図・運用記録・解析資料をアストラルドへ提供。
しかし、それらは異世界の言語やコードで記されており、アストラルドの魔術士たちにはほとんど解読できなかった。
さらに資料には、意図的な「改ざん」や「削除」の痕跡があり、ゾルティスによる情報操作の可能性が浮上。
そのためアストラルド帝国は、自らも異世界人を召喚し、監視と解読を担わせることを決定した。
こうして星刻の峡谷を挟み、両陣営が睨み合う状況が続くことになる。
召喚と監視、及び『鍵』の管理は、5年に一度行われる。
「星霧の祝祭」の前後に行うものと、定められた――。