深夜になって、ふと目が覚めた。
喉が渇いたわけでも、音がしたわけでもない。
でも、なにか胸の奥でひっかかるような違和感があって、自然と目が開いた。
机が、ぼんやりと光っている。
「……ん?」
体を起こし、眠気の残る目をこすりながら見つめる。
最初は月明かりが反射してるだけかと思った。
けど違う。
ベッドから身を起こし、机に近づく。
光っていたのは、ほどけた折り鶴の白い紙だった。
昼間見たときは真っ白だったはずなのに、今は月の光に照らされて、淡い文字が浮かび上がっている。
「……まさか、これ……」
思わず息をのんだ。
誰かの想いがようやく、俺のもとに届いた気がした。
「英語?」
そこに書かれていたのは、短い文章だった。
「I want to talk to you. If possible……I want us to understand each other」
紙に浮かんだ光の文字を見つめる。「……なんだこれ、読めねえよ!」
ツバサは眉をしかめ、口元で読み上げてみる。
「アイ……ウ、ウワォト? トゥ……トォク……トゥ、ユー……?」
ぎこちなく、途切れ途切れに、英語を読み上げていく。
「イフ、ポシブレ……? アイ、ウワォト、アス、アンダースタン……イー……なんだよ、もう」
途中で言葉が詰まり、ツバサは苛立ったように息を吐いた。
「ぜんっぜんわかんねーよ。英語なんて読めるかっての……」
紙を持ったまま、ツバサはため息をつく。
けれど、なぜかその文字からは、静かに、確かに「何か」が伝わってくる気がしてならなかった。
「……ん、どうするか」
すっかり目が冴えてしまった俺は、机に向かって考え込んだ。
英語は読めないし、誰かに聞くこともできない。
けど、ひとつだけ、これに悪意はない、そんな気がしていた。
もしこれが罠だったら……。
「ここまでして罠だったら、もう、それでいいよな」
ひとりごちて、自然と笑みが漏れた。
「……俺も、ほんと懲りねぇ」
そういや昔、母さんにも呆れられてたっけ。
「あんた馬鹿? 何回騙されたら気が済むの?」
ネットのゲームで仲良くなったやつに、大事なアイテムを貸して、そのまま逃げられた。
いわゆる「借りパク」ってやつだ。
一度や二度じゃない。
毎回後悔して、次こそはって固く心に誓うのに、やっぱりまた信じて、騙されてしまう。
俺、バカだな。
そんなことをぼんやり考えていたら、指先がいつの間にか紙の端に触れていた。
「……うわっ!」
突然、紙が青白く光りはじめた。
優しい光だ。
驚きつつも、そっと指をどけると、紙の端がひときわ明るく輝いている。
恐る恐る、もう一度触れてみる。
「……すげえ……」
静まり返った塔に、俺の声だけがやけに大きく響いた。
次の瞬間、光の中に、日本語の文字が浮かび上がった。
『私は、あなたと話したい。できれば……わかり合いたい。 ――レイラ』
「……マジかよ」
俺はその場に固まった。
目の前の紙に、確かにレイラの「気持ち」が届いていた。
(第2章 第10話に続く)