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第14話 不穏な気配 (Part 3)


 再び部屋にこもる生活に戻った。いや、元通りになっただけか。

 俺は資料室にこもって、ひたすら文献やら装置を漁っていた。


 そこでひとつ、意外な事実に気づく。


 俺はずっと、召喚されるのは学者や超一流の技術者ばかりで、異世界で英知を尽くしているのだと思っていた。


 たしかにすごい人もいただろうけど、それはあくまで一握り。

 実際はもっとバラバラだったのかもしれない。


「……これ、ヤベえな」


 手にしていたのは、《魔法変換装置》と呼ばれる謎の機械。

 幸い、これを作ったのは日本人らしく、日本語で書かれた使い方マニュアルが残されていた。


「これさえあれば、なんでも作れるじゃん!」


 少し興奮した俺は、あれこれいじくり回してみた。


 この装置の仕組みは単純。魔石を動力にして、連動したタブレットのデータを装置に転送すると、物質化してくれるらしい。


 つまり、異世界版の3Dプリンターってことだ。


「よし。まずはアレだ。最初に作るならアレしかない!」


 俺はタブレットにデータを入力して、転送する。

 魔法変換装置は、低い音を立てて、光り輝く。


 そして、ものの数分でそれは完成した。


 装置から手に取ると、ずっしりして重い。

 まさしく、俺が描いた理想のモノが完成していた。


「マジか……これで俺IKETERUU卒業して、俺TUEEEにクラスチェンジじゃね?」



 俺の目は爛々と輝いていた。


       ***


【アストラルド帝国内、指揮官室】


 沈黙が数秒続いたあと、女性魔導士の淡々した冷たい声が室内を切り裂く。


「それで、上手くいくのか?」


 感情の欠片もない声が、空気を凍らせた。


「はい、間違いなく」


 魔導士は肩にかかった白銀の髪を手で払い、胸元に刻まれた星刻の紋が、淡く光を帯びた。

 それだけで、彼女が帝国の上位の存在であることを物語っていた。


 執務机の前で片膝を付く兵士は、星刻の紋を見た途端、頭を下げた。


 帝国の象徴であり、権力と叡智の結晶。それは、この国の軍を統べる者の証だった。


「実行しろ。リリアナ様には、悟られるな。失敗は許さん」


 魔導士の声は鋭く、部屋に響いた。

 兵士は一瞬身を震わせ、すぐに立ち上がると、敬礼して部屋を後にした。


 彼女は窓の外に目をやる。

 雲ひとつない空をながめ、はじめて笑みを浮かべた。


 その微笑は、空の向こうにだけ向けられたものだった。


       ***


【ゾルティス連合、協議会委員長室】


 王の接見の間と見まごうような豪華絢爛な大広間。


 その上座に鎮座する、レイドック協議会委員長。

 従えるは、ゾルティス連合の司令塔。魔導師――ヴェルザンディ。


 不敵な笑みを浮かべ、その目は猛禽類のように鋭い。

 漆黒のローブには、ゾルディスの象徴、三つ子の蛇が描かれている。


「それで、上手くいくのか?」


 レイドックは、五十過ぎとは思えない低くしわがれた声で問う。


「もちろん。委員長のご期待に添えるかと思います」


 ヴェルザンディの口角が上がる。冷徹な笑みとはまた違う、邪悪な笑みだった。


「よし、わかった。上手くやれ。連携後は、分かっているな?」


「はい。すべて殲滅いたします」


 それを聞いたレイドックは満足げにうなずき、大広間全体に響き渡るような笑い声を上げた。


「これで、ルクセリオンは我がものになる!」


「はい、そのように」


 ヴェルザンディは、笑い声を上げるレイドックを見上げ、刹那、目を細めた。


 その目の奥に光ったのは、忠誠か裏切りか。

 誰にも分からなかった。



(第2章 第15話に続く)


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