目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第26話:封印と邂逅 (Part 6)


 洞窟の中で、俺たちは静かに語り合っていた。

 リュックに詰めたものの中に携帯ライトがあり、それを灯す。

 岩壁に二人の並んだ姿が、影絵のように映しだされる。


 話の中心は、レイラの国――アメリカの話だった。


 レイラは明るく話していたけど、孤児院という場所がどういうところか、俺なりには知っていた。


「だからね、夜になると懐中電灯で遊んでたんだ。ベッドの端から互いに光らせて、言葉を決めて」


 クスクス笑うレイラ。

 その笑顔が本心なのか、そうでないのかは分からない。

 ただ、ひとつ分かることは、彼女は明るくて、強いってことだ。


 この異世界であっても、必死に生きようとしている。

 諦めず、腐らず、前を向き続ける。


 比較するわけじゃないが、自分がどれだけ甘えた生活をしていのか、嫌ほど分かる。


「ねえ、ツバサ。日本ってどんな国? やっぱりアニメが有名なの?」


「うーん。そうだね。漫画やアニメは、毎月新作が発表されるからね。やっぱり有名かな」


「いいなー。私もいっぱいアニメ見たいな」


 ふと遠くを眺めるレイラ。


 やっぱり戻りたいよな。たとえどんな場所でも。

 俺たちが住む世界じゃないのは、なんとなく感じる。

 このままここにいたって、「駒」扱いされるだけだ。


 なんとしてでも、地球に、元の世界に戻らなくちゃ。


 そこで気になったことを聞いてみた。


「レイラの召喚先、ゾルディスだっけ? ……元の世界に戻れるって、言われた?」


 そう尋ねると、彼女はわずかに視線を伏せた。


「……ううん。戻れないって、言われたの。カルヴァスっていう、黒ローブの指導者に」


「……そっか」


 俺は小さく息をのんだ。

 リリアナは『5年後に帰す』と言ってたけど、今となってはそれも怪しく感じる。


 じゃあ、俺たちは……どうすればいい?


「それとね、私……鍵って呼ばれてた。ゾルディスの未来を開く『鍵』だって」


 俺はびっくりした。


「俺も言われたよ! なんだっけ? ええと……祭壇がどうとかって。まるで、駒として扱われているみたいだよ」


 苦笑いしながら言うと、レイラも小さく頷いた。


「……ツバサ、私たち……信じ合えるよね?」


 彼女の声はかすかに震えていた。

 その目はどこか俺に似ていた。

 信じていた人に裏切られ、馬鹿にされ、騙されて誰も信じられなくなった。それでもと願う、そんな目だった。


 俺はしっかりと彼女の目を見て、うなずく。


「ああ。もちろんだ。友達だからな」


 その一言に、レイラはほっとしたように微笑んだ。そのあと、少しだけ目を伏せて、「それなら……よかった」と呟いた。


「今のはズレてねえ。完璧だよ、レイラ」


 ふっと、小さな笑いが生まれる。


「で、これからどうする?」


「分かんない。でも……お前と一緒なら、なんとかなる気がする!」


 洞窟の入り口から覗く星空が、ほんの少し、未来を照らしてくれる気がした。


「なあ、レイラ。ゾルディスの街って、どんな感じだった? 俺、塔から出たことなくてさ。アストラルドの街も、全然知らないんだ」


 そう尋ねると、レイラは顔を上に向けた。俺もつられて眺める。

 ライトの光が岩の粒を照らし、ときおり魔石がきらりと反射した。

 星のかけらみたいで、幻想的できれいだった。


 レイラは静かに、そして懐かしそうに話し始めた。


「ゾルティスはね、獣人やエルフたちが一緒に暮らしてるの。みんな優しくて、あたたかくて……私のことを、家族みたいに迎えてくれたよ」


「へえ……ファンタジーそのものだな。俺も見てみたいな。もふもふの耳とか、クルっと跳ねた尻尾とか」


 その瞬間、レイラがじとーっとした目で睨んできた。


「ツバサ、顔がいやらしい」


 ――ぐぅ、ヤバッ。


「ご、ごほんっ。なるほどね! だから言葉が通じる仕組みがあるのか!」


 話題を無理に変えると、レイラは静かにうなずいた。


「うん。召喚者って、いろんな世界から来るみたいだから。言葉が通じないと困るからね」


 けれど、一瞬だけ、彼女の表情が曇る。


「でも……カルヴァスとヴェルザンディは違った。彼らは封印を壊そうとしている。そして、私の命を“鍵”として利用しようとしてるの」


 俺は再び驚いた。全く同じだ。


「なるほど……やっぱり同じか。アストラルドも、ゾルティスも、召喚者を“駒”として扱ってる」


「ツバサ……あなたも、“鍵”?」


「ああ、多分な。封印された“核兵器”の……とか言ってた。相当ヤバい代物みたいだ」


 レイラの瞳が揺れる。


「じゃあ、私たち……死ぬの?」


「死なねぇよ! 怖くても……誰かを信じて、生きるって決めたからな!」


 笑ってみせるけど、内心では心臓がバクバクだ。

 信じるって、簡単なことじゃない。……でも、もう逃げたくはなかった。


 俺にしては思い切った決断だった。


 ん? 反応がない?

 まさか、やらかした、俺?



(第3章 第27話に続く)


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?