どんなに田舎だろうと、冒険者ギルドであるからにはクエストがある。
そして、クエスト掲示板には都会の掲示板と同じようにスライム討伐クエストが貼られていた。
「うぐ、ぐ……」
今すぐはがして燃やしてやりたい。
だが、このクエスト掲示板には【カッティーニ・ハガス・ト・シケイ】という超強力な制裁雷撃魔法が施されている。
その昔凄まじい報酬のクエストに失敗した冒険者が、腹いせに各地のギルドからそのクエストの依頼書をはがして盗むという事件が起きたことが発端だ。
それ以後、悪戯や邪な心で掲示板から依頼書を剝がそうとすると、ドラゴンの体内の水分が干からびるほどの電撃が迸るようになった。
(電撃と炎はスライムの弱点だ……並みのスライムなら0.01秒で消滅、私でも10秒持つか……せめて水属性の魔法なら)
私を信じるスライム達よ、すまない――剥がしを断念して、掲示板に貼る前の依頼書を探すことにしたクーデレが受付カウンターに戻った時だった。
「お、あの子がクーデレちゃんか」
「美人じゃねーか。こりゃまた冒険者活動がんばれるってもんよ」
「あたしゃの若い頃にクリソツだよ」
「バカ言えババア」
「やっぱギルドには受付嬢がいなくちゃな」
「おかみさーん、エービル一杯ね!」
あれよあれよとギルドの中に農家風の人々がなだれ込んできて、食堂の席も、ギルドの席も埋まった。
「な、な……」
この田舎町のどこにこんなに人が……。
パクパクと口を開閉させるクーデレ。
彼女の下に、クエスト掲示板から依頼書を取って腰の曲がったジジババが数名受付カウンターへとやって来た。
「ほいじゃま、このクエストで」
腰の曲がったおじいちゃんが持ってきたのは〖グレーエリートドラゴンの討伐〗というクエストだった。
グレーエリートドラゴンと言えば東の
薄紅色の硬い表皮は斬撃を通さず、魔法攻撃を反射する。
ブレスは山を三つ貫通するほどの威力で、その鍵爪には次元を斬り裂く力があるという。
更に特筆すべくはそのどう猛さで、一度目をつけられたら最後死ぬまで追い回される。
故にこのクエストを受ける者は、討伐するか出来なければ自決する誓約書を書かなければならない。
クーデレは受付嬢絶対合格赤本で一通りのクエストの内容とモンスターの知識を蓄えていたから知っている。勿論この町の図書館で借りた。
「え、あの……本気でこのクエストを受ける気?」
普通に心配になって素を出すクーデレ。
だって、このおじいちゃんスライムみたいにぷるぷる震えてる。
「ふぉっふぉっふぉ! 心配してくれるのかいお嬢ちゃん? 大丈夫じゃよ。さ、誓約書をよこしとくれ」
クーデレはおずおずと依頼書をつき返した。
「ご老体には無理だ。辞めておくことだな。見たところ武器も防具も装備していないようだし……」
冒険者の数が減るのはスライム的には万歳だが、それが老い先短そうなおじいちゃんだと冒険者絶対殺スライムのクーデレと言えども気が引ける。
「活きのいいお嬢ちゃんだ気に入った、じゃが、冒険者を見た目で判断しちゃぁいけないぞい?」
ぷるぷる震えていたおじいちゃん冒険者が体に「ふんっ!」と力をいれた。
次の瞬間、バリバリバリ! とおじいちゃんの上着が破れる。
上半身裸になったおじいちゃん冒険者の体はムキムキのピカピカで、はちきれんばかりの筋肉の鎧に包まれていた。
「…………は?」
クーデレのスライム脳は停止した。
なんだこの筋肉のバケモノは……という言葉で埋まった。
ニカっとおじいちゃん冒険者が白い歯を剥き出して笑う。
「ふぉっふぉっふぉ! グレーエリートドラゴンの討伐はこれで6回目じゃ。武器? 防具? この筋肉と拳の前には不要じゃよ。さ、安心して誓約書をよこしなさい」
「は、はひゃい!」
討伐される!
クーデレは本能的に誓約書を渡し、〖グレーエリートドラゴン討伐〗の依頼に承諾のハンコを押すのだった。