「はいこれクエスト達成の証。ソードタイガーの牙ね」
素手で触れれば指が落ちると言われるソードタイガーの牙がカウンターに置かれた。
クーデレは受付嬢スキル・接客スマイルを浮かべる。
「ありがとうございます。こちら確かに受け取りました!」
どんな刃も通さないシールドタートルの甲羅でつくられた手袋をはめて受け取り、納品ボックスへ収納。
「こちら報酬の2万ギルニーです!!」
カウンターの下からドン! とギルニー金貨がたくさん入った革袋を腰に刀を差した初老の冒険者に受け渡す。
これで冒険者と受付嬢の間で発生する全てのやり取りは終了だ。
「カッカッカ! クーデレちゃんみたいな美人から報酬を受け取れると気分がいいねぇ!どうだい今夜俺と一緒に夜のクエストにでも……」
初老の冒険者は革袋の中の酒を飲みながら、クーデレの手の甲をすべすべと触る。
(触るなのんべぇがぁ!!)
クーデレはスパン! と手を退けた。
「もう、セクハラですよ? 次の方どうぞー」
初老の冒険者は「ちぇまたフラれたか~」と報酬金袋をじゃらじゃら鳴らしながらギルドから出ていった。
「クーデレちゃん、この依頼を頼むわねぇ……」
次の老婆は〖ファイヤコケコッコー討伐〗という討伐依頼書をクーデレに手渡す。
「こちら魔法使い専用のクエストですが……」
老婆は確かにローブを着ているが、その手に携えているのは農業用のクワだ。
クーデレの視線に気づいたのか、老婆はそのクワを見せて顔をしわくちゃにして笑った。
「ふふふ、ダイジョブよ~! 確かにこれは畑を耕すクワだけど、杖としても機能するから、ほら、【ファイヤ】♡」ゴウゴウ!! ただの初級魔法【ファイヤ】を老婆が唱えると、クワの先から炎が爆発的に噴き出した。それは通常の【ファイヤ】と比べて高火力の青色の炎で意志を持っているかのように動き回った。
ギ、ギルドが燃える!!
「わ、わかりました! クエストを承諾します!! なのでここで魔法を唱えないでください!!」
「ふふ、ありがと。それじゃ、行ってきま~す」
魔法使いの老婆はクワを歩行補助用の杖のようにしてゆっくりギルドから出て行った。
(あのクエスト、本来4人用……まああのお婆さんならダイジョブか。この前も一人でオオミノタウルスの角を持って帰ってきたし……)
ここ数日≪ロウヘイノヤカタ≫で働いてわかったのは、このギルドにクエストを受けに来る冒険者のほとんどが老人で、しかも農作業の合間にクエストを受けに来るということ。
それから彼らのほとんどが高難度のクエストを難なくクリアするほどの実力者。
ギルドマスターのジジが畑仕事に行っている間に≪ロウヘイノヤカタ≫に登録されている冒険者の情報書類を漁って驚いた。
(上級魔導士、上級兵士、上級弓兵、上級サムライ……なんなんだこの村の人間どもは)
「クーデレちゃんどした? 恋煩いかい?」
「こりゃじーさん。女の子になんてこと聞いておるのじゃ馬鹿者。ごめんねぇクーデレちゃん。このクエストを受けたいんじゃが……」
金の鉞を担いだおじいさんと、銀の鎧にガチガチに身を包み、盾を携えるおばあさんの2人組が〖キャッスルゴーレム討伐〗のクエストを差し出してくる。
攻城兵器を使用しないと倒せないと言われている大型モンスターだ。
何故それが鉞と盾のみでいけると……いや、この町の住人ならやるのだろう。
受付嬢スキル発動! 営業スマイル&偽物の都市言葉!!
「……ぼーっとしててすみません。はい! こちら承諾させていただきます! お気をつけて!!」
頭を下げて元気よく彼らを見送るクーデレ。
この町の冒険者が強すぎることなんて考えても仕方ない。
(今は受付嬢として最高の仕事をしなければ……!)
空いた時間にはギルドの掃除なども率先し、忙しく一日は過ぎて行った。