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第8話

「勢いとはいえ同士を売ってしまったな……」


 夕方。ギルドが店じまいして帰路につくクーデレ。


 家族を守るためとはいえ、お隣の森のゴブリンさん達には悪いことをした気がしなくもない。


「共同戦線を断わったのは向こうだし。ま、いいか」


 それはそれとして、昼間の少女・サーリャは《ゴブリンの森》に向かってから帰ってきていない。


 不敵に笑っていたのでまあ魔法に腕があるのだと思っていたのだけど……というか≪ロウヘイノヤカタ≫の冒険者だから強いと思っていたのだけど。


「まさかな……」


 クーデレは遠くに見えるスライムの森のおゴブリンの森に目を向ける。


 お日様はもう沈んでしまう。


 夜のゴブリンたちは素早くなる。


 あの子がまだあの森の中にいるのならば……。


 クーデレは苦虫をかみつぶした表情に、面倒くささが混じった顔を浮かべて唱えた。


「……【ワープル】」




 頭上は枝葉が、周囲を木々が視界を塞ぐ。


 薄暗くなってきた《ゴブリンの森》の中をサーリャは走っていた。


「はあはあ、はあ……!」


 彼女の後ろを無数の足音が追いかける。


『ニンゲン』『コロス』『クウ』『ガンエン、カケル』『イヤ、サトウ』『オデ、アマイキライ』『ダマレ』『ショッパイスキ』『ワカル』『カライスキ』『ワカラナイ』


 こん棒を持ったゴブリンたちだ。


 緑色一色で腹がでっぷりと出ているモンスター。


彼らは集団行動を得意とし、集団で狩りをする。


太陽が苦手なのか、昼間の動きはとろいが、夜になると動きが素早くなる特性があった。


きっと夜行性なのだろう。


 サーリャは後ろを振り向き、杖の先を向けて唱える。


「ファ、【ファイヤ】! 【アイス】! 【サンダー】」


 小さな火の玉と、ちょっぴりの氷、そして静電気がゴブリンたちに向かう。


 ジュ、ヒヤ、パチチ……。


『ア?』『ヨワ』『ザコ』『ギャハハ!』『カカレ! カカレ!』


「や、やっぱりダメだわ……!」


 サーリャは逃げに専念することに。


 だが、じょじょにゴブリンたちは迫ってくる。


「だ、だれか、助けて……ジジさん……、皆……あうッ!?」


 木の根に躓き、転ぶサーリャ。


『ヤッタ』『ニク!』『クウ』『オシマイ』『コロセ』『コロス』『バンゴハン!!』


 倒れたサーリャに一斉に襲い掛かるゴブリンたち。


「【ハリセ・ンボンボ】!」


 ゴブリンたちの目前に光球が現れて爆発し、光の剣がゴブリンたち目掛けて無数に飛び散った。


『ギャア!?』『ナンダ?』『ドシタ?』『ヤバイ』『シヌ!』


 ゴブリンたちは大混乱。


 逃げ惑い、光の剣に切り裂かれ、泣きわめく。


「なにが……おきて」


「なるほど、ちゃんと発動するとこんな感じね。えぐ」


 困惑するサーリャに手を差し伸べ立ち上がらせる者がいた。


「今のうちに逃げるぞ!」


「あんた受付嬢の……!」


 クーデレはサーリャの手を引いて走り出す。

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