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第12話

「そっち行ったぞサーリャ!」


「ファ、【ファイヤ】!!」


 ボウ! 小さな火球がゴブリンに着弾する。


『アチチチ!!』


 ゴブリンは火を消そうと地面に転がった。


「【ヒカリノツルギ】よ!」


 クーデレが指先でゴブリンを指すと、頭上に魔法陣が現れ、光剣がゴブリンの息の根を止めた。


「流石師匠! それって中級魔法?」


 【ヒカリノツルギ】は【ファイヤ】や【アイス】に並ぶ初級魔法だ。図書館にいけば簡単に覚えることができるはず……勉強不足め。


(だけどまあ、【ファイヤ】の威力があがっているし……ここは褒めるのが師匠の役割、か?)


「師匠?」


 サーリャが上目遣いに見上げてくる。


「よ、よく頑張ったな」


 労うとサーリャはぼっと顔を赤くした。


「べ、別に師匠の為に強くなったんじゃないし! 皆の為なんだからね!!」


 それはその通りだろう。




 ≪ロウヘイノヤカタ≫に戻り受付嬢業務へ。


「はい師匠! 〖ゴブリン討伐〗クエスト完了の証の、こん棒よ!」


「はい、サーリャさん。確かに。こちら報酬の1000ギルニーです」


 形式通りのやり取りを終えて、サーリャは受付カウンターに身を乗り出してクーデレに耳打ちをする。


「師匠! これで多分魔導耕運機が買えるくらいお金が溜まったわ! 師匠のおかげね! ありがと!!」


 魔導耕運機は新品なら10万ギルニーからだが、中古ならば3万ギルニーあれば良い性能のものが買える。当初プレゼントするなら新品が良いと駄々をこねていたサーリャは己の力量と、なにより力を貸してくれているクーデレへの配慮から中古の魔導耕運機に目標をシフトした。

 次回の敬老の日には今度こそ自らの力100%で新品を買えるようにと魔法の修行を頑張っている。


「声が大きいサーリャ。皆に聞こえてる」


 クーデレの注意を受けて慌てて口を塞ぐサーリャ。


 振り返ると、老冒険者の皆さんがエービルを手ににやにやとこちらを見ていた。


「悪ガキのサーリャが随分とクーデレちゃんになついたもんだなぁ……」


「仲良しさんだねぇ~」


 サーリャはわたわたと否定する。


「ち、ちが! 師匠は師匠で……な、仲良くなんてないんだからね!」


「カッカッカ! クーデレちゃんは全然俺の事相手にしてくれないってのによぉ!」


「それはあなたがセクハラしてくるからですよのんべぇサムライさん」


 ちげえねえ!


 誰かの言葉に呼応して笑顔が広がっていく。


 クーデレは最近そんな≪ロウヘイノヤカタ≫の雰囲気が心地よくて、思わず笑みを浮かべそうになる。


(……いけないいけない。冒険者に心を許すなど断じて……私はスライムクイーン。モンスターだ。ここは私の居場所では、ないのだから)


 その時、バン! とギルドの扉が開いて、ジジが慌てた様子で入ってきた。


「みんな大変じゃぞ、外に出て見てみるのじゃ!」


 剣幕に押されてギルドの中にいた人間達は全員外に出た。


 すると、遠いスライムの森辺りから黒煙が吹きあがり、青空を黒く染めているのが見えた。


「なんとまあ」


「ありゃ森のほうじゃねーか?」


「火事か?」


「どうして……」


 ざわつく老冒険者たち。


(なんで住処に火の手が……皆の者は……)


 クーデレは困惑し固まっていたが。


「師匠、あれはスライムの森の方ですよね? ご家族は……」


 心配げに黒煙を見上げるサーリャの言葉のおかげで我に返った。


「行ってくる!」


「し、師匠行くって……?」


「【ワープル】!」


 クーデレは唱えてその場から消えた。


「クーデレちゃん?」


「どこにいったんだ?」


「ワープルって唱えてたのう……」


 突如消えたクーデレに、老冒険者たちは首をかしげる。


「師匠……大丈夫、だよね」


 サーリャは黒煙をもうもうと吹き出す森の方角を見て心配げに呟いた。


「なにが大丈夫なんじゃサーリャ? あの火事と今【ワープル】したクーデレさんと関係があるのかのう?」


 サーリャの不安な心を見透かすようにジジが尋ねた。


 サーリャはしばらく視線を彷徨わせると、意を決したように口を開いた。


「あのね、ジジ……」



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