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第2話 この子、日本人なんですか?"

転入生・瓢及鸞(ひょうのらん)が登場してからというもの、2年A組の教室はざわつきが止まらなかった。


金髪碧眼、まるで西洋人形のような美貌。


なのに、しゃべる言葉は、完璧な関西弁。


さらに、英語はネイティブ、でも日本人。


このあまりに刺激的な属性に、初対面から完全に脳の処理が追いついていない生徒が多数いた。



「……ねえ、あの子って、本当に日本人なの?」


「いや、なんかうっかり『Yes』って答えそうになるけど、確かに言ってたよね、日本生まれって」


「じゃあ、なんであんなに金髪なの? ハーフ? 留学の成長影響? 遺伝子革命?」


「ていうか、関西弁なのが一番混乱するんだけど……」



翌日の朝HRでも、話題はもちろん鸞一色だった。


当の本人はというと、窓際の席で頬杖をつきながら外を眺めている。


制服はきっちり着こなしているのに、なんだか妙に絵になる。


それだけで周囲の空気が少しだけざわつくのだ。



「……うち、なんかすごい目ぇつけられてる気ぃするな……」


鸞は小さくつぶやいて、机の中からスティック型のチョコを取り出し、ぽりっとかじった。



「そりゃあ、あんな自己紹介されたら、注目も集まるでしょ」


ふいに話しかけてきたのは、隣の席の少女だった。


艶やかな黒髪をふわりと結い、涼しげな目元が印象的な美人――都あずさ。


その柔らかい京ことばが、鸞の耳に心地よく響く。



「うち、都あずさと申します。お隣になりましたよしみで、よろしくお願いしますな」


「おお、京都の人か? 京ことば、上品でええなぁ」


「ええ、おおきに。でも鸞さんの関西弁も、たいそうにぎやかで……えっと……」


あずさが少し困ったように言葉を探す。



「……騒々しいって言おうとした?」


「そこまでは申してません!」


「ふふ、ええねん、うちも自分で自覚あるし」



鸞は笑って、チョコをもう一本取り出してあずさに差し出す。


あずさは戸惑いながらもそれを受け取り、小さく一礼してから口に運んだ。



「でも、ほんまにビックリやったわ。英語ネイティブで、金髪で、関西弁……」


「自分でもようわからんアイデンティティやで。おかげで、日本帰ってきてからずっと“なに人?”って聞かれてる」


「じゃあ、その髪と瞳の色は……」


「隔世遺伝らしいわ。なんか、かなり昔の祖先に英国人がおったとかで、うちの代でいきなりこれや」


「なるほど……奇跡の現象どすな」


「遺伝って、ほんま侮れんで」



そのやりとりを、周囲の生徒たちは耳をそばだてて聞いていた。


とはいえ、二人が発する“関西弁と京ことばの混在音声”は、


「同じ日本語のはずなのに字幕が欲しい」


という気分にさせるほど、異文化感にあふれていた。



「……でも、よう喋るな、あの子たち」


「うん、なんか漫才っぽくない?」


「ツッコミどころが多すぎて処理が追いつかない……」



そんな中、クラス委員長の東條深雪が、静かに立ち上がった。


彼女は冷静沈着、文武両道、男子顔負けのリーダー気質。


それゆえ、今回の“転入生騒動”にも一歩引いた目線で観察していた。



「……まあ、これから日常がどう変わっていくのか、ある意味楽しみね」


と、小さく笑って自分の席に戻っていった。



その言葉通り、まだ誰も知らなかった。


この日を境に、2年A組の平穏は音を立てて崩れていくことになる。


だが、それは決して悪い意味ではなくて――


とびきり愉快で、ちょっと面倒で、でも愛すべき“新しい日常”の始まりだったのだ。


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