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第3話 雅なる京ことばの令嬢

放課後、教室内では文化祭に向けた話し合いが始まりつつあった。


とはいえ、準備というほどの熱はまだなく、机を囲んで雑談を交えた軽いアイデア交換会といったところだ。



「メイド喫茶ってどう? 定番だけど人気あるし」


「うんうん、でも制服とキャラの方向性どうする? 洋風? 和風?」


「そのへんは、やっぱり鸞さんとあずささんがやるなら、バチッと決まりそうだよね……」



その言葉に、教室内の視線がふたりに集中する。


片や、金髪碧眼・関西弁で英語ペラペラの謎多き転入生・瓢及鸞。


片や、黒髪黒目・京ことばでおしとやか、まるで和の極み・都あずさ。



「まるで“和洋折衷の象徴”やん……」


「すごい……舞台装置だけで勝てそう……」



そんなクラスメイトの言葉に、鸞はお菓子をかじりながら肩をすくめた。


「なんや、勝手に盛り上がってんなあ」


「……鸞さんは、そういうの、お嫌いどすか?」


あずさがそっと問いかける。



「ううん、別に嫌やないで? ただ、うちがメイドって言われても、どう考えても“仕える側”には見えへんやろ」


「……それは、確かに」


「即答なんかい」



ふたりのやり取りにクラス中から笑いが起きる。



そのあと、誰かが「ふたりって仲いいね」と言ったとき、鸞は一瞬きょとんとした顔をした。



「仲ええ……んかな?」


「え、仲良くないんどすか?」


「いや、うちがあずささんに気ぃ使ってもろてるのは分かってるし、こっちもありがたく思ってるんやけど……」


「……なんやその、営業トークみたいな表現は」


「いや、うち関西人やから率直に言いたくなるんやけど、あずささんは“しずしず”しとるし、うちとは真逆やから」



あずさはくすっと笑って、袖で口元を隠す。


「鸞さん、うちのこと、しずしず言わはったの、初めてですわ」


「でも、否定はせぇへんのやな」


「ふふ。せやけど、うち、鸞さんみたいにハッキリ物を言える人、好きどすえ」


「……そ、それは……」



鸞が頬をかくと、周囲がまたクスクスと笑い出す。


どうやら、クラスは早くもこの“凸凹ペア”を、完全におもしろがっているらしい。



その後、話題はどんどん脱線していく。


「そういえば、都さんって、あの都グループの……」


「えっ、ホテルとか料亭とか経営してるっていう?」


「すごい、やっぱり本物のお嬢さまだったんだ……」



周囲がざわつき始める中、あずさは顔を少し赤らめて小さく首を振る。


「そないな話、大げさどす。

家業は確かにそうやけど、うちはただのひとり娘で……」


「いやいや、十分すぎるやろ!」


鸞がツッコミを入れる。



「……うちなんて、海外暮らし長かったけど、普通の家庭やで? おかんは主婦だし、おとんは科学者や」


「それ、十分普通ちゃいまへん!」


「せやかて、家にバトラーとか執事とかおらんしな?」


「うちにもおりまへん!」



ふたりの掛け合いに、教室の笑いはもう止まらない。


ツッコミとボケが逆転することもしばしば。


そして、気づけば誰もが自然と彼女たちの会話に引き込まれていた。



それは、言葉の壁を越えた“音楽”のようでもあり。


文化や育ちの違いさえも笑いに変える、心地よい化学反応だった。



――これが、のちに“聖フィオナの最強名コンビ”と称される、


瓢及鸞と都あずさの最初の認知された瞬間である。



その日、日誌にこう書き残した生徒がいた。



『今日、うちのクラスに、

関西弁と京ことばの“漫才の神”が降臨した』




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