翌日、朝のHRが終わった直後のことだった。
2年A組の教室には、少しずつ転入生・瓢及鸞の存在が馴染み始めていた……と思いたい。
だが、実際のところは――
「なあ、今日も瓢及さんってすごいテンション高かったね」
「うん、しかも関西弁で英語混ざると、頭がパンクしそう」
「それにあの都さんって子も、京ことばだから……普通の会話が漫才にしか聞こえないんだよね」
昼休み、廊下を歩く生徒たちのそんな噂話が、教室の中まで聞こえてくる。
当の本人、鸞はというと――
「うち、また注目浴びとるな……背中がむずがゆいわ」
「あきらめるしかありまへん。鸞さんはどこにいても目立ちますさかい」
「いやいや、うちとしては目立たんようにしてるつもりなんやけどな!」
鸞があずさと昼食をとりながらぼやいていると、隣の席の東條深雪が静かに突っ込む。
「その“つもり”がまずズレてると思うけど」
「ええっ、うちなんかしたかいな?」
「さっきの授業中、先生の発音が気になるって小声でつぶやいたの、しっかり聞こえてたよ」
「そ、そうなん?!」
あずさはふふっと微笑む。
「鸞さん、声の通りようが、ほんまに鮮やかどすな」
「誉め言葉やないやろ、それ!」
教室の一角では、他の生徒たちが二人の会話に耳を傾けていた。
「また始まった……」
「もうあれ、授業中でも漫才だよね」
「むしろ最近、あの二人が黙ってると『あれ、今日体調悪いのかな?』って思うようになってきた」
それも無理はない。
授業中の発言、ちょっとした会話、そしてリアクション。
何をとっても、鸞とあずさの言葉のやりとりは独特で、誰もが聞き耳を立ててしまうのだ。
「でも、うち、あずささんが相手やからよう喋るんやで?」
「……え?」
「他の人にはここまでボケへんし、ツッコミもされへん。あずささんがおるから、こうやってのびのびできるんや」
鸞の素直な言葉に、あずさはわずかに驚いた顔を見せたが、すぐにやわらかく微笑んだ。
「……うちも、鸞さんと喋ってると、自然に笑えて、楽しいどすえ」
二人の静かなやりとりに、聞き耳を立てていた数人がジーンとしかけたその瞬間――
「お熱いこって」
「お似合いやねぇ」
「おい、クラス公認かこれ」
と、別の方向から冷やかしが飛んできて、二人は同時に顔を真っ赤にする。
「な、なんでやねん!」
「う、うちらはそないな関係やありまへん!」
ツッコミのテンポすら揃っている二人に、教室中がどっと笑いに包まれた。
――こうして、学園生活の序盤にしてすでに“名コンビ”として認識されたふたり。
彼女たちの毎日は、ますます騒がしく、にぎやかになっていくのだった。