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第4話方言地獄のはじまり

翌日、朝のHRが終わった直後のことだった。


2年A組の教室には、少しずつ転入生・瓢及鸞の存在が馴染み始めていた……と思いたい。


だが、実際のところは――


「なあ、今日も瓢及さんってすごいテンション高かったね」


「うん、しかも関西弁で英語混ざると、頭がパンクしそう」


「それにあの都さんって子も、京ことばだから……普通の会話が漫才にしか聞こえないんだよね」



昼休み、廊下を歩く生徒たちのそんな噂話が、教室の中まで聞こえてくる。


当の本人、鸞はというと――


「うち、また注目浴びとるな……背中がむずがゆいわ」


「あきらめるしかありまへん。鸞さんはどこにいても目立ちますさかい」


「いやいや、うちとしては目立たんようにしてるつもりなんやけどな!」



鸞があずさと昼食をとりながらぼやいていると、隣の席の東條深雪が静かに突っ込む。


「その“つもり”がまずズレてると思うけど」


「ええっ、うちなんかしたかいな?」


「さっきの授業中、先生の発音が気になるって小声でつぶやいたの、しっかり聞こえてたよ」


「そ、そうなん?!」



あずさはふふっと微笑む。


「鸞さん、声の通りようが、ほんまに鮮やかどすな」


「誉め言葉やないやろ、それ!」



教室の一角では、他の生徒たちが二人の会話に耳を傾けていた。


「また始まった……」


「もうあれ、授業中でも漫才だよね」


「むしろ最近、あの二人が黙ってると『あれ、今日体調悪いのかな?』って思うようになってきた」



それも無理はない。


授業中の発言、ちょっとした会話、そしてリアクション。


何をとっても、鸞とあずさの言葉のやりとりは独特で、誰もが聞き耳を立ててしまうのだ。



「でも、うち、あずささんが相手やからよう喋るんやで?」


「……え?」


「他の人にはここまでボケへんし、ツッコミもされへん。あずささんがおるから、こうやってのびのびできるんや」



鸞の素直な言葉に、あずさはわずかに驚いた顔を見せたが、すぐにやわらかく微笑んだ。


「……うちも、鸞さんと喋ってると、自然に笑えて、楽しいどすえ」



二人の静かなやりとりに、聞き耳を立てていた数人がジーンとしかけたその瞬間――


「お熱いこって」


「お似合いやねぇ」


「おい、クラス公認かこれ」


と、別の方向から冷やかしが飛んできて、二人は同時に顔を真っ赤にする。



「な、なんでやねん!」


「う、うちらはそないな関係やありまへん!」



ツッコミのテンポすら揃っている二人に、教室中がどっと笑いに包まれた。



――こうして、学園生活の序盤にしてすでに“名コンビ”として認識されたふたり。


彼女たちの毎日は、ますます騒がしく、にぎやかになっていくのだった。



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