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第6話 ふたりでお買い物

「鸞さん、今度の土曜、お暇どすか?」


放課後の教室で、ノートを閉じたあずさが、少し恥ずかしそうに声をかけた。


「おっ、珍しいな。予定入れてくれるん? もちろん空いてるで!」


「ちょっと、行きたいお店があるんどす。よろしければご一緒に」


「おーっしゃ! お買い物デートやな!」


「デ、デートとは言ってまへん!」


「照れてるあずささん、かわええな~」


「からかわんといてください!」



というわけで、土曜日の午後。


ふたりは待ち合わせ場所の駅前広場で顔を合わせた。


制服ではなく、それぞれ私服。


あずさは白いブラウスに淡いラベンダー色のスカート。まるで古都の風をそのまままとうような清楚なコーディネート。


一方の鸞は、黒のスキニーパンツにパステルブルーのシャツジャケットを羽織り、外国人モデルのようなスタイルで堂々と立っていた。



「……目立ちますね、鸞さん」


「うちの見た目が派手なんやなくて、あずささんが清楚すぎんねん」


「それ、褒めてはります?」


「もちろんや!」



最初に向かったのは、和雑貨やアクセサリーが揃うセレクトショップだった。


「これ、あずささんに似合いそうやな」


「これは……ちょっと派手すぎます」


「じゃあこれ。んー、ちょっとおとなしすぎるか……」


「……鸞さん、選ぶの楽しんではる?」


「バレたか」



次に入った文具店では、あずさが真剣な目で万年筆を眺めていた。


「これ、インクの出がええって聞きまして……」


「へー、あずささんって、手紙書くタイプなんや」


「たまに、どすけど。文字って、直接声に出すより、心に残る気がしませんか?」


「……ええこと言うなぁ」



そのあと、駅前の商業ビルへ移動し、ファッションフロアをぶらぶら。


洋服を試着するあずさの姿に、鸞が思わず口笛を吹いた。


「……めっちゃ似合ってるで、それ」


「え……そ、そうどすか?」


「なんや、モテそうやなぁ。うち、心配になってきたわ」


「な、なんでですの!」


「うちが隣におらんと、ナンパされるやろ」


「も、もう……」



そんなことを話していたときだった。


「ねえねえ、そこの子たち、よかったら一緒にお茶しない?」


後ろから、軽い調子の声がかかる。


振り向くと、数人の若い男たちが立っていた。



「あら、またや……」


「げ、またナンパやん」


「さっきから見てたんだけどさ、君たち、目立つからさぁ」



鸞が何か言おうとしたその時。


「あの……私たち、急いでますさかい」


あずさが、はっきりと、けれども柔らかく言い切った。



「え、ええっ……」


「あ……あれ?」


男たちが驚いたように顔を見合わせる中、あずさは小さくお辞儀をして、すっとその場を離れる。



鸞も慌てて後を追う。


「えっ、すご。さっきの、完璧やったで」


「昨日、鸞さんに助けていただいて……うちも、ちゃんと断れるようにならんと、と思いまして」



鸞はしばらく感心したようにあずさを見つめていたが、やがてにっこり笑った。


「……成長したなぁ、うちのあずささん」


「だ、誰の“うちの”ですか!」



それでも。


ふたりの笑い声は、夕暮れの街に心地よく響いていた。


そしてその距離は、また少しだけ近づいていたのだった

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