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第8話 中間テスト、英語で爆走!

春の学期が進むにつれて、聖フィオナ女学院にも試練の時がやってきた。

そう、中間テストである。


この名門校では、成績もまた名誉の一部。

特に2年生ともなれば、大学推薦や将来の進路にも関わるため、生徒たちは皆、気を引き締めて試験週間に挑んでいた。



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――そんな中で。


「鸞さん、英語のテスト、どうでした?」


「んー、まあ、いつもどおりやで。迷うとこなかったし」


「ですよね……うち、最後の読解、ちょっとだけ残してしまいまして」


「どんまいどんまい。うち、あそこ一番楽しかったわ」



---


隣で苦笑いするあずさを横目に、鸞はまるでピクニックでも終えたかのような軽やかさだった。



---


しかし、異変が発覚したのは翌週。

教室に掲示された中間テストの順位表。


――1位:瓢及 鸞(ひょうの らん)


「……え?!」


教室中がざわつく。


「ちょ、待って。鸞さんって、帰国子女なのはわかってたけど、学年1位って……」


「しかも、全教科満点!? 冗談やろ!?」



---


「いや、ほんまやで」


鸞は笑顔で返す。


「でもうち、全部英語で書いたからな。採点してくれた先生に感謝や」


「英語で……!?」



---


国語、数学、理科、社会、英語。

全部英語で記述したという噂は、またたく間に校内に広がった。


「そんなのアリなんですか!? 日本語で解答しなきゃダメなんじゃ……」


「でも、“日本語で書け”とは明記されてなかったらしいよ」


「そりゃそうかもしれないけど……」



---


職員室では教師たちが集まり、軽い会議が行われていた。


「全部英語で書いてあるけど、解答内容は完璧だ」


「しかも、記述式も構成が論理的で美しい……」


「でもこのまま放置すると、来学期の試験、全員英語で書いてくるかも……」



---


その結果――


「来期以降、“全教科、日本語で記述すること”を明記しよう」


という、極めて真っ当な判断が下された。



---


一方、教室では……


「鸞さん、すごい……ほんまに全部満点やなんて……」


「まぁ、うちは生きてる言語が英語やしな。日本語、たまに文法で混乱するで」


「でも、先生たちもすごいですよね、全部採点してくれはって」


「ほんまそれ! “ご協力感謝”ってお礼状書いたほうがええかもな」



---


あずさは、そんな鸞の肩越しに、掲示された順位表をそっと見上げた。

自分の名前は、そこに――五位。


決して悪くない。

むしろ、普段の成績から考えれば上出来だ。


でも。


(やっぱり、追いつくには、まだ遠い……)


心のどこかで、ぽつりと影が差す。



---


すると、その気配を察したのか、鸞が軽く肩を叩いてきた。


「なーなー、あずささん」


「はい?」


「今度の期末は、日本語で解答縛りになるらしいで」


「えっ……」


「つまり、うちの“英語攻撃”は使えへん。

これからは日本語で勝負やからな……。あずささんのターンや!」


「た、ターンって……」



---


あずさは思わず笑ってしまった。


そしてその笑みの奥に、再び小さな決意が宿る。


(今度こそ、鸞さんと並びたい)


そう思った瞬間、テストの順位表が、ただの数字ではなく、

ふたりの関係をつなぐ一つの目標に変わった。



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中間テストの結果が教室に波紋を広げる一方で、

その中心にいたふたりの物語は、静かに、新たな段階へと進み始めていた。

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