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第12話 :スタイルも能力も“外人級”


「はい、今日は100メートル走からスタート! 準備してー!」


夏空の下、グラウンドに整列した生徒たちの中で、ざわめきが起きる。  

原因はただひとり――瓢及鸞、その人だった。



「……あの脚の長さ、反則やん……」


「体操服着てても、なんかモデルみたい」


「ていうか、外国の王女感あるよね」



そんな声を背中に受けながら、鸞はジャージの袖をまくって、爽やかに笑っていた。


「うち、こういうの好きやねん。走るん、気持ちええやろ?」


「気持ちとか以前に、勝てる気せえへん……」



ピッ――!


スタートの笛が鳴ると同時に、鸞の身体がしなやかに宙を駆けた。


軽やかなフォーム。力強い蹴り出し。  

風を味方にしたかのような加速――



「え、もうゴール!? まだ半分やと思ったのに!」


「タイム、何秒……!? 先生、今の記録見た!?」



先生も目を丸くしていた。


「……たしかに、9秒台……? いやいや、測り間違いか……」



鸞はゴールでくるっと振り返ると、まだ走ってくる皆に手を振っていた。


「おーい、がんばれー!」



「なんやあれ……完璧超人すぎやろ……」


「うち、もう今世では勝てる気せえへん……」



続く種目、走り高跳びでは――


「うち、昔ちょっとだけやっとってん」


と言って軽く跳んだその姿は、まるで舞う蝶。


「……あのフォーム、陸上部のエースでも見たことない……」


「跳び箱とかもヤバいらしいで」



案の定、跳び箱もすべての段を涼しい顔で跳び越えた。


「記録、更新しましたね……」


先生がつぶやく。



最終種目のリレー。


「アンカー、鸞さんで決まりやな!」


「そりゃそやろ! ゴールした瞬間、髪なびくん見たいもん!」



そして、その期待は裏切られなかった。


猛然とした追い上げで、鸞は10メートル以上の差をひっくり返して一位でゴール。



「すっごぉおおい!!」


「仕えるべき姫君って、こういう人なんや……」


「もはや体育の女神……!」



汗だくのはずなのに、鸞はどこか涼しげに笑っていた。


「楽しかったわー! 体動かすん、やっぱええな」



一方、ベンチで見ていた都あずさは、微笑みながらも、静かに胸の奥にチクリとしたものを感じていた。



(うちは……ただ見とるだけやった。  

せやけど、やっぱり、鸞さんはすごい人やな)



そんな彼女の視線に、鸞が気づいて手を振る。


「ほら、あずささんも来いよー! 次、バスケやってみよ!」


「え、ええ!? うち、ボール競技、苦手なんどすけど……!」



その場にいた誰もが思っていた。


――瓢及鸞、スタイルも能力も“外人級”。  

まるで“使える側”ではなく、“仕えられる側”。


それでいて、誰よりも親しみやすいという、まさに規格外の少女だった。



そして、そんな彼女の隣にいる都あずさもまた、

新たな心の波を感じ始めていたのだった。


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