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第14話 :水泳授業、衝撃の事実



「今日は、いよいよ水泳の授業だぞー!」


先生の号令が響き渡る中、生徒たちは水着姿でプールサイドに集まっていた。  

空は高く澄みわたり、まさに水泳日和。セミの声すらもどこか浮かれて聞こえる。



「はあぁ……日差しが強い……」


「でも、鸞さんのスク水姿、めっちゃ映えるな……!」


「背中の筋肉とかヤバい。スタイルも水着映えも完全に勝者の風格やん……」



一方、鸞はというと、プールの端で準備体操をしながら余裕の笑みを浮かべていた。


「うち、水泳は自信あるんよ。クロール、平泳ぎ、バタフライ、なんでもこい!」


「もはや海から来た系ヒロイン……」



都あずさも、上品に体操をこなしていたが、その表情はどこか曇っていた。


「都さん、浮かない顔してるけど……大丈夫?」


そう声をかけたのはクラス委員長の東條深雪だった。


「……実は、うち……泳げまへん」


「え?」


深雪が聞き返すより早く、先生の声が響いた。


「よーし、それじゃあまずは泳力確認! ビート板ありで25メートル泳いでみよう!」



深雪は慌ててあずさの手を取った。


「都さん、無理しないで。私が横でサポートするから!」


「おおきに……」


プールに入ったあずさは、冷たい水に肩をすくめながら、なんとかビート板を掴んだ。


しかし――


「……っ!?」


少し顔が水に沈んだだけで、あずさの体がビクンと反応した。


「ひゃ……っ、怖いっ……!」


足をばたつかせ、水をはね上げてしまう。


「都さん、大丈夫!? 呼吸、落ち着けて!」


深雪が声をかけるが、あずさはすぐにプールの縁にしがみついてしまった。


「……ごめんなさい……やっぱり、怖いどす……」



その様子を、少し離れた場所で見ていた鸞の表情が変わる。


「……そっか、あずささん、泳がれへんのやな」



だが次の瞬間、誰よりも速く25メートルを泳ぎ切ったのは鸞だった。


シュッ、シュッと軽やかに水を切る音。  

流れるようなフォームに、周囲の生徒たちが目を奪われる。


「……まるで水の中の舞姫……」


「人魚か……? 女神か……?」



プールから上がった鸞の髪が濡れてきらきらと光り、まるで映画のワンシーンのようだった。


その姿を、あずさは黙って見つめていた。



(うちは……全然届いてへん)


胸の奥に、ぽたりと熱い雫が落ちるような感覚。



「泳げへんのは、恥じゃないよ」


声をかけてきたのは深雪だった。


「でも……」


「都さん、鸞さんを見て“すごい”って思ったでしょ?  

だったら、それを目標にしていいと思う。追いかける価値、ある人だよ」



あずさはゆっくりとうなずいた。


「……せやな。うち、変わりたい。  

せやから……泳げるようになりたいどす」



その日、帰り道。


夕焼け空の下、あずさはひとり決意を胸に歩いていた。


(うち、鸞さんと並んで泳げるようになりたいんどす)



そのまっすぐな願いが、やがて小さな挑戦へとつながっていく――


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