「せっかくみんな、泳げるようになったし、どっか行きたいよなぁ~」
終業式の帰り道、鸞がクラスメイトたちポロリとこぼした一言に食いついた。
「それ、めっちゃわかる!」
「せやな! もうプールだけじゃ物足りんわ!」
「よし、海や海! 今年の夏は、みんなで海に行こっ!」
こうして、クラスの女子グループ有志による“海の日帰り小旅行”が計画された。
メンバーは、鸞、あずさ、深雪、陽菜、沙耶香、千尋の6人。
目的地は、電車で1時間半ほどの観光地としても有名な南国風の海岸。
白い砂浜と青く澄んだ海に、全員のテンションは到着早々MAXだった。
「うわー! 見て見て、めっちゃキレイやん!」
「ほんま……こんなに広い海、初めて見たどす……」
更衣室で着替えを済ませた6人は、プライベートビーチのような静かな浜辺に現れた。
あずさは淡い藤色のワンピースタイプの水着に、白いパレオを巻いている。
深雪はミントグリーンのセパレート水着にシンプルな上着を羽織り、陽菜や沙耶香たちもそれぞれ個性のある、だがあくまで控えめで清楚な水着姿。
そんな中――
「お待たせー!」
最後に現れた鸞の姿に、全員が凍りついた。
彼女が着ていたのは、漆黒のハイレグビキニ。V字に深く切れ込んだラインが健康的な肌を大胆に見せつけ、ゴールドのアクセサリーがその魅力をさらに際立たせていた。
「え、ちょ、なにあの……モデル!? 女優!? いや、ビーチの主役すぎん!?」
「やばい、あんな水着、私らは絶対無理……!」
「攻めすぎやって……でも似合うのがまた腹立つ……!」
鸞は照れた様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべた。
「うち、こういうの好きやねん。せっかくの夏やし、目立ってなんぼやろ?」
「目立つにもほどがあるわ……!」
少女たちが歓声を上げながら海へと繰り出したその時――
「ねぇ、そこのお嬢さんたち、よかったら一緒に泳がない?」
浜辺の岩陰から現れたのは、チャラめの男性グループだった。
「うわ、出た」
「毎年恒例やな、この手の人ら……」
陽菜が顔をしかめ、沙耶香がそっとあずさをかばう。
「ナンパですの? わたしたち、グループで来ておりますので」
「いやいや、ちょっと話すくらい……」
その時、颯爽と前に出たのはもちろん鸞だった。
「Excuse me, we’re not interested. Please leave us alone.」
「……え、え?」
「Also, if you continue, I might report this to the local police. You understand?」
「え、まじ? 警察とか……」
「Do. You. Understand?」
「は、はいぃっ……!!」
男子たちは泡を食って浜辺の向こうへと逃げていった。
「……あれは怖すぎた」
「英語って、威圧力すごいな……」
少女たちは大笑いしながらも、鸞の頼もしさに心から感謝していた。
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波と戯れ、砂で城を作り、全力で水中鬼ごっこ。
少女たちは夏の一日を全身で味わっていた。
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午後の陽がやや傾き始めたころ。
「ねー、そろそろお腹空かない?」
「空いたー! もう無理、倒れる!」
深雪が静かに手を挙げた。
「実は……海の家、予約しといたの」
「マジ!? 女神!?」
向かったのは、木造の趣ある海の家。
テーブルには海鮮焼き、冷やしうどん、スイカ、かき氷、焼きとうもろこしと、夏のフルコースがずらり!
「これ全部、食べてええの!?」
「もちろん、女子会スペシャルコースやもん!」
食べて、笑って、喋って、また笑って。
「さっきのナンパ、鸞さんガチすぎて草やったわ」
「うち、あれぐらい言わな伝わらへん思てな」
「都さんの泳ぐ姿、めっちゃ綺麗やったよ~」
「そ、そんな……まだまだでしてよ……」
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帰りの電車では、あずさと鸞が並んで座り、夕暮れの海を名残惜しそうに眺めていた。
「うち、今日がほんまに楽しかったんどす」
「うちもや。こんな夏、初めてやったわ」
少女たちの笑い声が、潮風に乗って、どこまでも続いていくようだった。