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第16話 夏、砂浜、乙女たちのバカンス


「せっかくみんな、泳げるようになったし、どっか行きたいよなぁ~」


終業式の帰り道、鸞がクラスメイトたちポロリとこぼした一言に食いついた。


「それ、めっちゃわかる!」

「せやな! もうプールだけじゃ物足りんわ!」

「よし、海や海! 今年の夏は、みんなで海に行こっ!」


こうして、クラスの女子グループ有志による“海の日帰り小旅行”が計画された。


メンバーは、鸞、あずさ、深雪、陽菜、沙耶香、千尋の6人。


目的地は、電車で1時間半ほどの観光地としても有名な南国風の海岸。

白い砂浜と青く澄んだ海に、全員のテンションは到着早々MAXだった。


「うわー! 見て見て、めっちゃキレイやん!」

「ほんま……こんなに広い海、初めて見たどす……」


更衣室で着替えを済ませた6人は、プライベートビーチのような静かな浜辺に現れた。


あずさは淡い藤色のワンピースタイプの水着に、白いパレオを巻いている。

深雪はミントグリーンのセパレート水着にシンプルな上着を羽織り、陽菜や沙耶香たちもそれぞれ個性のある、だがあくまで控えめで清楚な水着姿。


そんな中――


「お待たせー!」


最後に現れた鸞の姿に、全員が凍りついた。


彼女が着ていたのは、漆黒のハイレグビキニ。V字に深く切れ込んだラインが健康的な肌を大胆に見せつけ、ゴールドのアクセサリーがその魅力をさらに際立たせていた。


「え、ちょ、なにあの……モデル!? 女優!? いや、ビーチの主役すぎん!?」

「やばい、あんな水着、私らは絶対無理……!」

「攻めすぎやって……でも似合うのがまた腹立つ……!」


鸞は照れた様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべた。


「うち、こういうの好きやねん。せっかくの夏やし、目立ってなんぼやろ?」

「目立つにもほどがあるわ……!」


少女たちが歓声を上げながら海へと繰り出したその時――


「ねぇ、そこのお嬢さんたち、よかったら一緒に泳がない?」


浜辺の岩陰から現れたのは、チャラめの男性グループだった。


「うわ、出た」

「毎年恒例やな、この手の人ら……」


陽菜が顔をしかめ、沙耶香がそっとあずさをかばう。


「ナンパですの? わたしたち、グループで来ておりますので」


「いやいや、ちょっと話すくらい……」


その時、颯爽と前に出たのはもちろん鸞だった。


「Excuse me, we’re not interested. Please leave us alone.」


「……え、え?」


「Also, if you continue, I might report this to the local police. You understand?」


「え、まじ? 警察とか……」


「Do. You. Understand?」


「は、はいぃっ……!!」


男子たちは泡を食って浜辺の向こうへと逃げていった。


「……あれは怖すぎた」

「英語って、威圧力すごいな……」


少女たちは大笑いしながらも、鸞の頼もしさに心から感謝していた。


---


波と戯れ、砂で城を作り、全力で水中鬼ごっこ。


少女たちは夏の一日を全身で味わっていた。


---


午後の陽がやや傾き始めたころ。


「ねー、そろそろお腹空かない?」

「空いたー! もう無理、倒れる!」


深雪が静かに手を挙げた。


「実は……海の家、予約しといたの」

「マジ!? 女神!?」


向かったのは、木造の趣ある海の家。


テーブルには海鮮焼き、冷やしうどん、スイカ、かき氷、焼きとうもろこしと、夏のフルコースがずらり!


「これ全部、食べてええの!?」

「もちろん、女子会スペシャルコースやもん!」


食べて、笑って、喋って、また笑って。


「さっきのナンパ、鸞さんガチすぎて草やったわ」

「うち、あれぐらい言わな伝わらへん思てな」


「都さんの泳ぐ姿、めっちゃ綺麗やったよ~」

「そ、そんな……まだまだでしてよ……」


---


帰りの電車では、あずさと鸞が並んで座り、夕暮れの海を名残惜しそうに眺めていた。


「うち、今日がほんまに楽しかったんどす」

「うちもや。こんな夏、初めてやったわ」


少女たちの笑い声が、潮風に乗って、どこまでも続いていくようだった。




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