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第17話 :静かなる違和感、揺れる想い


夏休みが明け、久しぶりの登校日。  

制服に袖を通すだけで、身体に少し重みを感じる。  

だが、教室は変わらず賑やかで、笑顔があふれていた。


「いや~、やっぱ学校ってええな!」

「休み中もグループチャット動いてたけど、やっぱ直接会うのが一番やな!」

「都さん、肌きれいすぎ……海行ったはずやのに焼けてへんやん!」



鸞もあずさも、いつものように仲良く登校し、いつものようにクラスで並んでいた。


だが、その日のあずさには、どこか小さな“違和感”があった。



(……なんやろ。鸞さんのこと、最近ずっと考えてまう)


夏の旅行、ナンパ騒動、焼けた砂浜、きらきらの海、笑い声――

全部が楽しくて、全部がまぶしくて、全部の中心に、あの人がいた。



「都さん、今日の髪型、変えた?」

「……え? あ、はい。少し巻いてみました」

「めっちゃ似合ってるやん。大人っぽくてええ感じ!」


鸞の笑顔に、胸がズキンと痛む。


(どうしよう。うち、今、変な気持ち抱いてへん?)



放課後、帰り道。


「なあ、あずささん。明日、映画観に行かへん? 海の時のお礼も兼ねて!」


「……え? 明日、どすか?」


「うん。近くのモールでやってるアクション映画、気になっててん」


「……あの、すみません。うち、明日は……その、用事があって……」


「そっか、また今度やな!」


鸞はまったく気にしていない様子で笑ったが、あずさは胸の奥にしこりのような罪悪感を抱えていた。



その夜、自室で窓の外を見ながら、あずさはひとりつぶやいた。


「……うちは、鸞さんと、どうなりたいんやろ……」


ふたりで過ごす日々が楽しくて、自然で、心地よくて。  

でも、その“心地よさ”が、いまはむしろ怖かった。



翌日、学校。


いつものように鸞が隣に来て、いつものように声をかけてくれる。


「なあ、今日の体育のペア、うちとやんな?」


「……うち、今日は別の人と組みたいどす」


「えっ……」


鸞の笑顔が、ほんの一瞬、止まった。


「……そうなんや。わかった」


それだけを言って、鸞は静かに席に戻った。


クラスメイトたちの間に、微妙な空気が流れる。



(なんで、あんなこと言うたんやろ、うち……)


自分でもわからなかった。

ただ、心の奥に生まれていた“不安”が、言葉に出てしまっただけ。


(うちは……どうしたらええんやろ)


あずさの心には、はっきりしない想いと、言えなかった言葉が渦を巻いていた。


そして、その“揺れ”は、ふたりの関係を静かに変え始めていた。

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