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第20話 :秘密の週末、ふたりの約束



その週末。

待ち合わせ場所は、駅前のロータリー。


あずさが到着すると、すでに鸞はベンチに座って待っていた。

ゆるく巻いた髪、白いブラウスに淡いピンクのスカート。


「あ……」


思わず声が漏れた。


「ん? あずささん、おはよ!」


「お、おはようどす。今日も……かわいいですね」


「えへへ、あずささんもやん! そのワンピ、めっちゃ似合ってるで!」


鸞の眩しい笑顔に、心臓がドキンと跳ねる。


(こんなん、ずるいわ……)



---


電車に揺られて、向かったのは市街地から少し離れた丘の上。


「ここ、知ってる? 展望台と、ちっちゃな花畑があって、めっちゃきれいやねん」


「いえ……初めて来たどす」


駅からの坂道を登るうちに、町の喧騒が徐々に遠ざかっていく。

緑の香り、蝉の声、そしてすぐ隣を歩く足音。


(この静けさ、悪くないな)



---


展望台にたどり着くと、眼下には広がる街並みと、うっすら霞んだ夏空。

そして、手すりの向こうに咲き広がる色とりどりの小さな花畑。


「……わぁ……」


あずさが思わず息を呑む。


「せやろ? ここな、知られてへんけど、穴場なんやで」


「ほんま、秘密の庭みたいや……」



---


ベンチに腰かけて、ふたり並んで風に吹かれる。


「最近……うちは、いろんなこと考えました」


不意にあずさが口を開く。


「うち、今まで“誰かを好きになる”って、よう分からへんと思ってました。でも……鸞さんと過ごして、話して、笑って、泣いて……」


「うん……」


「やっぱり、これは……恋なんやと思うんどす」


鸞は少しだけ目を見開き、それから微笑んだ。


「……やっぱり、そうやったんやな」


「でも、まだうちは未熟で。自分の気持ち、うまく整理できひんし、うまく言葉にもできへんし……」


「大丈夫やで」


鸞はやさしく、あずさの手を取った。


「うちもな、すぐに“これが恋や!”って分かったわけちゃう。

でも、気づいたときにはもう、あずささんのことが、特別な人になっててん」


あずさはそっと、鸞の手を握り返す。


「うちは、不器用やけど……これからも、隣にいてくれますか?」


「もちろんや。うちは、何があっても、あずささんの味方やから」



---


帰り道。


花畑をあとにしたふたりは、駅前のカフェでひと休み。


クリームソーダをひと口飲んで、鸞が笑った。


「なあ、これからもさ……誰にも言えへん“ふたりだけの場所”を、たくさん作っていかへん?」


「……ふふ。秘密の庭、秘密のカフェ……」


「秘密の約束も?」


「うん。ふたりだけの……特別な時間」


カラン、と氷がグラスの中で鳴る。


そして、ふたりは目を合わせ、また微笑んだ。


心と心が、ゆっくりと、確かに重なった気がした。


それはまだ、恋の入口。

でも、世界でたったひとつの、やさしい物語の始まりだった。




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