目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第21話 おこしやす、修学旅行は事件の香り1:出発!京都&大阪‐神戸ツアー

 修学旅行当日の朝。東京駅の新幹線ホームは、遠足気分の女子高生たちで華やいでいた。


 瓢及鸞はコロコロとキャリーケースを転がしながら、金髪を揺らして振り返る。


「おーい、あずささーん! 集合写真撮るで!」


「ほ、ほんまですか? ちょ、髪乱れてへんか確認だけ――」


 都あずさは慌ててポーチを開き、鏡で前髪を整える。袴柄をアレンジした旅行用トートを肩に、いつものはんなりモードとは違う高揚感がにじんでいた。


 クラスメイトの陽菜がスマホを構え、深雪が号令をかける。


「はい、3、2、1――どすえ★」


 シャッター音と同時に、関西弁と京ことばと標準語が入り交じった歓声がホームに響く。


「ていうか鸞さん、それ寝間着ちゃう? パジャマ感すごいんやけど!」


「これは“エフォートレス英国スタイル”言うねん! 移動はラクが一番!」


「新幹線で優雅にクロワッサン食べそうやもんな」


「あずささんもめっちゃお嬢やん。トランクに家宝入っとる?」


「一口羊羹と緑茶ティーバッグどす」


「さすが京女!」



### ◆車内は即席お笑い劇場


 N 700 系の車内に落ち着くやいなや、クラスの女子たちはお菓子交換タイム。早くも通路は修学旅行名物“歩く駄菓子屋”状態だ。


 そんな中、陽菜がマイクのおもちゃを取り出した。


「特別企画! **関西弁講座 vs 京ことば講座** 開幕~!」


 拍手喝采。急ごしらえの舞台に立たされたのはもちろん、鸞とあずさ。


「ほな、まずは日常会話編いっときましょか」


「ちょ、準備なしなんどすけど……!」


 それでも二人は息ぴったり。


> **鸞(関西弁)**「あほちゃうか!」  

> **あずさ(京ことば)**「あんじょうしとくれやす」


「語感がソフトすぎる!」


「そちらこそストレートすぎどす!」


 車内は笑いの渦。先生が苦笑しつつ注意に来るが「車掌さんの英語アナウンスに合わせた異文化交流です!」と鸞が謎の理論武装で切り抜ける。



### ◆富士山とほか弁


 窓の外に富士山が姿を現した頃、あずさはそっとお弁当包みを広げた。鱧の押し寿司、ちりめん山椒、だし巻き卵――京の香りの詰め合わせ。


「手作り!? うわ、料亭級!」


「うち、卵サンドやけど交換して!」


「ええですけど……鸞さんの卵サンド、マーマイト挟んであるやないですか!」


「British Power!」


 あずさは困惑しながらも一口。「……意外といけるどす」


「せやろ!」



### ◆京都駅到着、そして――


 正午前、列車は京都駅に滑り込む。コンコースを流れる三味線 BGM に、修学旅行ムードが一気に高まった。


 深雪が点呼表を掲げて叫ぶ。


「全員いるわね! まずは清水寺コース、往復徒歩! 健脚組、覚悟して!」


「うそやん、キャリー転がして坂上るん!?」


「へっちゃらやで、うちラグビー帰りやから!」


「ラグビーは関係ないどす!」


 笑いと悲鳴が入り混じる中、あずさはふと隣の鸞を見る。陽光に金髪がきらめき、青い瞳が期待に輝いている。


(この人と一緒なら、どんな坂道も楽しいんやろな)


 そんな気持ちを胸に、あずさも歩き出した。  

京都と大阪と神戸――二泊三日の旅は、今始まったばかりだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?