:都家の和菓子店へ
「ほな、うちん家寄ります?」
あずさが控えめに提案すると、全員が即決。
「寄る寄る! 甘味タダ食いチャンス!」
「タダとは言うてへん!」
五分も歩けば、路地奥に暖簾を掲げた老舗「都菓房」が現れた。格子戸を開けると、檜の香りと優しい和三盆の匂いがふわり。
「都にようこそおこしやす」
迎えたのは色白の美しい女性――あずさの母・都千弥。「おかえりどす」と娘を抱き、続いて客に深々と頭を下げる優雅な所作。
「娘がお世話になっておりますえ」
次に現れたのは“京ばあや”こと女中頭の久乃。丁寧なお辞儀と同時に盆を差し出し、羊羹・わらび餅・ほうじ茶が並ぶ。
「お味見だけでもどすえ」
「ひぇぇ……これ無料試食の域ちゃう…!」
陽菜たちが感涙している横で、鸞は真剣な面持ちで羊羹を一口。
「……溶けた……これ、とろけるってより、溶けた……語彙力なくなる旨さ……!」
「うち毎朝これ食べてんの!?」
「残念ながら特別仕様やで」とあずさが笑う。
:母と娘、そして“婿養子”騒動
千弥は鸞をじっくり見つめると、微笑んだ。
「娘からよく伺っております。遠くからようこそ。……よう似合うてはるわ、その金髪と京の町」
「お、おおきに……!」
そこへ久乃が榊のように厳かに囁く。
「お嬢、将来の“お婿はん”でっか?」
「は!? ちゃ、ちゃいますっ!」
クラスメイトが「キャー!」と騒ぎ、鸞は真っ赤。あずさは顔を覆う。
「ほな“お嫁はん”どすか?」
「もっと大変!」
母千弥はくすくす笑いながら「まあまあ」と取り成し、特製抹茶パフェを6人分サービス。
「お梨剥きましょか?」
「これ以上甘味増えたら胃袋が京風破裂する!」
:早朝の思い出話
店を辞す際、千弥があずさにそっと土産包みを渡す。
「これは瓢及さんにも。昔、あの子が“言葉で悩んでる”言うてた。甘いもんは心を柔らかくしてくれるさかい」
包みの中身は、小ぶりの最中と金平糖。そして短冊。
> **『言葉は違うても、心は寄り添える』**
あずさの瞳が潤み、鸞はそっと肩を抱く。
「お母はん、めっちゃええこと書くやん……」
:旅館の夜、枕投げと恋バナ
鴨川沿いの旅館にチェックイン。浴衣に着替えると、部屋割りはもちろん6人で一室。
「さあ! 枕投げや!」
「修学旅行テンプレすぎ!」
京ことば枕投げ、英語枕投げ、関西弁ツッコミ枕投げ――言語ごちゃ混ぜ大乱戦で畳の上はカオス。
夜更け、布団の中。陽菜が小声で囁く。
「で、都さんと鸞さんはどっちが攻め?」
「な、なにを言うて……!」
沙耶香が「スイートな告白はあったん?」、千尋が「キスは?キスは?」と詰め寄る。
「ま、まだそこまでは……」
鸞はニヤリ。「これから、な?」
「やめてぇぇぇ!」
深夜二時。恋バナと笑い声が鴨川の流れに溶けていった。