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第4話 最初の一手


 舞踏会が終わる頃、タニアはすでに行動を開始していた。彼女が必要としているのは、ベアトリス・カーライルの秘密を確実に暴露できる証拠だ。それを掴むため、彼女はまず情報を集める協力者を探すことにした。どんな計画であれ、信頼できる人間の手を借りるのが成功の鍵である。


影の協力者との接触


タニアが選んだ協力者は、社交界でほとんど名前を知られていないが、裏では多くの情報を扱っている商人の娘、リゼットだった。リゼットは人目を引く存在ではなかったが、情報収集の腕前は確かで、信頼できると評判だった。タニアは彼女と密かに連絡を取り、舞踏会の翌日に会う手はずを整えた。


その日の午後、人気のない小さなカフェでタニアはリゼットと向き合っていた。紅いドレスの優雅な印象から一転、タニアは黒のシンプルなワンピースを着ており、その様子は静かな威圧感を漂わせていた。


「タニア様、こうして直接お会いできるとは光栄です。」

リゼットが慎重に声をかける。彼女もまた、この出会いがただ事ではないことを理解しているようだった。


「リゼット、あなたの噂は聞いているわ。頼みたいことがあるの。」

タニアは優雅に微笑みながらも、言葉には鋭い決意が込められていた。


「何なりと。私の能力で可能な範囲であれば、喜んでお手伝いします。」

リゼットが言葉を返すと、タニアは彼女の目を見据えて告げた。


「ベアトリス・カーライルの秘密を掴みたいの。特に、彼女が行っている不正な取引に関する証拠を。」


リゼットは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに表情を引き締めた。

「カーライル侯爵家……なるほど。彼らの動きについては少し聞いたことがあります。証拠を掴むのは簡単ではないでしょうが、やってみます。」


最初の手がかり


リゼットが動き出すと、数日もしないうちに最初の手がかりがタニアのもとに届けられた。それはベアトリスが関与している商業取引の詳細だった。彼女が侯爵家の財産を守るために、いくつかの裏社会の組織と手を組んでいることが示唆されていた。


「予想通りね。」

タニアはその報告を読んで、冷たい微笑みを浮かべた。


「これを証明する具体的な証拠が必要だわ。次の舞踏会までに、決定的なものを手に入れる必要がある。」

リゼットは頷き、さらなる調査を約束して去っていった。


危険な駆け引き


タニアは証拠を掴むため、舞踏会で得た情報をもとにもう一歩踏み込むことにした。次の手として選んだのは、ベアトリスの周囲の人間に接触し、間接的に証拠を引き出す方法だった。特に、ベアトリスの取り巻きの一人であり、財務に詳しいとされる男爵家の青年エドワードに目を付けた。


エドワードは表向きは温厚な青年だが、金銭に絡む話題には目がないことで知られていた。タニアは彼が出席する茶会に姿を見せ、さりげなく彼に近づいた。


「エドワード様、少しお話しできますか?」

紅茶を手に取りながら、タニアは微笑んだ。その笑顔に気圧されたのか、エドワードはすぐに頷いた。


「もちろん、タニア様。どのようなお話を?」

タニアは世間話を装いながら、ベアトリスに関する話題へと巧みに誘導した。そして、エドワードが話の流れで、ベアトリスが最近大きな金額を動かしていることを口にしたとき、タニアの目が輝いた。


「まあ、それは興味深いですわね。どういった取引なのでしょう?」

タニアの質問にエドワードは一瞬ためらったが、彼女の魅力に引き込まれたのか、つい詳細を話してしまった。それはベアトリスが裏社会と結託し、不正な輸出入を行っているというものだった。


計画の完成


この情報を基に、タニアはリゼットにさらなる調査を指示した。彼女は舞踏会の場で、この事実を暴露し、ベアトリスの信用を失墜させる準備を整えつつあった。


「ベアトリス、あなたが築き上げた偽りの王国は、これで崩れる。」

タニアは紅いドレスを見つめながら、静かに決意を口にした。母の形見であるこのドレスは、彼女にとって復讐の象徴であり、自らの誇りを取り戻すための戦装束だった。


次の舞踏会――タニアの計画が実行に移される舞台は、すでに整いつつあった。ベアトリスを舞台の中央に引きずり出し、彼女の罪を公然と暴く。その瞬間が来ることを、タニアは冷静な心で待ち続けた。


「さあ、ベアトリス。あなたの嘘の舞台が、いよいよ終わる時よ。」



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