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第6話 侯爵令嬢の失脚

舞踏会の夜、会場の華やかな空気が少しずつ熱を帯びていく中、タニア・ローズウッドは静かにその時を待っていた。目の前には、自信満々に笑い声を上げる侯爵令嬢ベアトリス・カーライル。その周囲には彼女の取り巻きたちが群がり、彼女を持ち上げる言葉が飛び交っていた。


しかし、タニアの目には、その様子が虚栄心の塊に見えていた。

「あなたの時代はここで終わるのよ、ベアトリス。」

タニアは静かにグラスを置き、紅いドレスの裾を整えながらゆっくりと立ち上がった。復讐の計画は完璧に練られている。あとは、これを舞踏会という舞台で公然と実行するだけだ。



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舞踏会の中心へ


タニアは軽やかに歩みを進め、会場の注目を一身に集めながらベアトリスのグループへと近づいた。その優雅な動きに、周囲の人々は自然と会話を止め、彼女の一挙一動に目を向ける。紅いドレスを纏ったタニアは、この夜の真の主役のようだった。


「まあ、タニア様。こんなところでお会いできるなんて嬉しいわ。」

ベアトリスが笑顔で迎え入れる。しかしその笑みの裏には、不快感を隠し切れない色が見えた。タニアの美貌と存在感が、ベアトリスの目には自分への脅威として映っているのだ。


「お招きいただきありがとうございます、ベアトリス様。今夜の舞踏会も、とても素晴らしいですわね。」

タニアは微笑みを浮かべながら、ベアトリスの視線を捉えた。その声は穏やかだが、どこか冷ややかで、周囲の人々を緊張させる何かが含まれている。


「それにしても、ベアトリス様はいつもお忙しそうですわね。私など、そんなに多くの商談を抱えたら気が休まらなくなりそうです。」

その言葉に、周囲の貴族たちがざわつく。タニアの言葉は、ただの褒め言葉ではなく、ベアトリスの秘密を暗に指摘するものであった。


「まあ、私はただ家のために働いているだけですわ。」

ベアトリスは軽く笑いながら返すが、その顔には一瞬の動揺が走った。それを見逃さず、タニアはさらに一歩踏み込む。



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秘密の暴露


「でも、働きすぎも体に毒ですわ。特に、裏でこっそりと何かを進めていらっしゃるのでしたら、余計に疲れてしまうのでは?」

タニアの言葉に、会場の空気が一変する。周囲の人々は息を呑み、ベアトリスを注視する。彼女が隠している秘密が何かあるのではないかと疑念を抱き始めたのだ。


「何をおっしゃっているのかしら?」

ベアトリスは声を強張らせながら笑みを浮かべる。しかしその余裕は次第に崩れていった。


タニアは取り出した一通の書簡を静かに掲げた。

「こちらをご覧いただけますか?これは、あなたが最近行われた商取引の詳細ですわ。」

その瞬間、周囲がざわめきを超えて騒然となる。タニアが提示したのは、リゼットが調査によって掴んだ証拠の一部だった。そこには、ベアトリスが裏社会と繋がり、違法な取引を行っている記録が詳細に書かれていた。


「これは何かの間違いですわ!」

ベアトリスは声を荒げるが、その目には動揺と恐怖が浮かんでいる。


「そうかもしれませんわね。ただ、これを公爵家の顧問弁護士に確認していただければ、真実がはっきりするはずです。」

タニアは静かに微笑みながらそう告げた。その微笑みは冷たく、容赦のないものだった。



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失墜の瞬間


タニアがその場を去る頃には、ベアトリスは完全に孤立していた。取り巻きたちは何も言わず、そっとその場を離れていく。舞踏会の後半には、誰も彼女に声をかける者はいなかった。


「これが始まりよ、ベアトリス。」

タニアは内心でそう呟きながら、紅いドレスを揺らして会場を歩き回る。ベアトリスが追放されるまでにはまだ時間がかかるだろう。しかし、その最初の一手は完璧に成功した。彼女の評判は確実に地に落ち、再び社交界で浮上することは難しいだろう。



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タニアの感情


舞踏会が終わる頃、タニアは窓辺に立ち、外の夜空を見上げていた。復讐の第一歩を成功させた達成感が胸を満たしていたが、同時に心の奥底に重い感情が残っていた。


「これで母も少しは喜んでくれるかしら……。」

そう呟いた瞬間、ふと背後から誰かの視線を感じた。振り返ると、そこには再びアレクシスの姿があった。彼は無言のまま、微かに微笑んでいる。その表情には何かを見透かしているような冷たさがあった。


「何の用かしら?」

タニアは警戒心を滲ませながら問いかけたが、アレクシスは何も答えず、ただ一言だけ言った。

「あなたの計画が思った以上に興味深いものだということが分かっただけです。」


その言葉を残し、アレクシスは静かに去っていった。タニアは彼の背中を見送りながら、再び警戒心を募らせる。



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