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第7話 アレクシスの正体


 舞踏会でベアトリスを公然と糾弾し、第一の復讐を果たしたタニアは、静かな満足感に包まれていた。だが、その余韻も長くは続かなかった。舞踏会が終わった翌日から、タニアの周囲には不穏な影がちらつき始める。特に、謎めいた青年アレクシス・フォードの存在は、彼女の計画に思わぬ波紋を呼び起こしつつあった。


アレクシスの再訪


その日、タニアは自室の書斎で次の標的について調査を進めていた。机に広げられた書類の数々は、彼女の綿密な計画と情報収集の成果を物語っている。次に狙うのは、かつてローズウッド家を陥れる側についた貴族議員アルバート男爵。彼の財務記録には怪しい点が多く、突き崩す余地が十分にある。


だが、彼女がペンを走らせている最中、ふと窓の外で人影が動くのが目に入った。庭に誰かがいる。それも、見覚えのある黒いコートを羽織った男だ。


「……アレクシス。」

タニアは書類を置き、静かに窓のカーテンを引いた。彼の姿を見つけた瞬間、心の奥に警戒心が湧き上がる。なぜ彼がここにいるのか?


予告なき訪問者


しばらくして、使用人がアレクシスをタニアの前へと案内した。彼はいつもの冷静な微笑みを浮かべており、気負う様子は一切ない。だがその余裕こそが、タニアをさらに警戒させた。


「タニア様、お邪魔をして申し訳ありません。しかし、どうしてもお話ししたいことがありまして。」

アレクシスは軽く頭を下げ、椅子に座るよう促されると自然な動作で腰を下ろした。


「こんなに早い再会だなんて、少し驚きましたわ。何のお話でしょう?」

タニアは微笑みを浮かべながらも、彼の動向を観察する。彼の言葉や態度の裏に何か目的があるはずだ。


「昨夜の舞踏会、とても印象的でした。特に、あなたの行動が。」

アレクシスの言葉に、タニアの眉がわずかに動いた。彼がどこまで知っているのかを慎重に探る必要がある。


「私の行動が?ただ舞踏会を楽しんでいただけですわ。」

「そうおっしゃるでしょうね。しかし、あなたの微笑みの裏に隠されたものを、私は少しだけ感じ取った気がします。」

アレクシスの瞳は鋭く、タニアの心を探るように光っていた。


アレクシスの謎


タニアは冷静を保ちつつ、彼の言葉を慎重に受け流した。

「貴族の女性として、微笑みは身につけるべき嗜みの一つですもの。特に意味などございませんわ。」


だが、アレクシスはまるでそれを否定するかのように微笑みを深めた。

「タニア様、私もこう見えて色々な世界を見てきました。偽りの微笑みと、本物の情熱が隠された微笑みの違いくらいは分かります。」


彼のその一言に、タニアは心の奥に冷たい汗を感じた。彼が単なる観察者ではないことが、はっきりと分かったのだ。


「ところで、アレクシス様。あなたがこんな風に私のもとを訪ねてきた目的は一体何ですの?」

タニアは切り替えるように問いかけた。


「私が何を求めているのか、いずれあなたも知るでしょう。ただ、今はあなたに興味があると言っておきます。」

彼は曖昧な言葉でかわしたが、その言葉はタニアにさらなる疑念を抱かせるだけだった。


過去との繋がり


その後、アレクシスは去ったが、タニアの心には不安の影が残された。彼が単なる興味本位で近づいているのではないことは明らかだった。そして、彼がタニアの行動を観察している様子から、何らかの意図を持っているのは間違いない。


さらにタニアは調査を進める中で、あることに気づいた。アレクシス・フォードという名前の青年が、過去に彼女の家族の失脚に関わる人物と接点がある可能性が浮上したのだ。


「……やはり、あの男はただの傍観者ではない。」

タニアは机に広げた資料を見つめながら呟いた。彼がローズウッド家の失脚にどのように関わっているのか、まだ確証は得られていない。しかし、その影響力が無視できないものであることは間違いなかった。


タニアの決意


タニアは立ち上がり、紅いドレスを掛けてある衣装ラックに目を向けた。それは母の形見であり、彼女の復讐を象徴するものである。このドレスを纏う時、自分が弱さに流されることは許されないのだ。


「アレクシス……あなたが何者であれ、私の目的の邪魔はさせない。」

タニアは決意を新たにした。彼が敵であろうと味方であろうと、復讐の道を進む中で立ち止まることはできない。彼女は再び資料に目を通し、次なる計画に向けて動き出した。




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