アルバート男爵の反撃と、マリアの裏切りという連続する衝撃に揺れながらも、タニア・ローズウッドは復讐を諦めなかった。だが、そんな彼女の前に、もう一つの驚くべき真実が立ちはだかることになる。それは、これまでずっと彼女を支え、守り続けてきたアレクシス・フォードの正体に関するものであった。
疑念の始まり
舞踏会でのマリアの裏切りが発覚した夜、タニアはアレクシスの行動についても考えを巡らせていた。彼はたびたび危険な状況で現れ、自分を救ってくれた。だが、その一方で、彼の目的や背景についてはほとんど何も知らない。
「彼は本当に味方なの?それとも、何か別の目的があって私に近づいているの?」
タニアは疑念を抑えきれず、彼に関する情報を探ることにした。信頼する協力者リゼットに頼み、アレクシスの身辺を徹底的に調査するよう指示した。
アレクシスの出自
数日後、リゼットが驚くべき報告を持って戻ってきた。
「タニア様、アレクシス・フォードについてですが……信じられない情報が出てきました。」
タニアは彼女の言葉に眉をひそめながら耳を傾けた。リゼットが持参した資料には、アレクシスの家系に関する詳細が記されていた。
「アレクシス様の家系は、かつてローズウッド家と敵対していたフォード家です。アルバート男爵とも密接な繋がりがあり、彼の父親はローズウッド家を陥れた計画の一端を担っていたようです。」
その言葉を聞いた瞬間、タニアは全身が凍りつくような感覚に襲われた。
「彼が……あの一族の人間だったなんて。」
フォード家――それはかつて、ローズウッド家の失脚を目論んだ黒幕の一つとして知られる家系だった。その末裔であるアレクシスが、なぜ自分に近づいてきたのか?その理由がますます分からなくなった。
アレクシスとの対峙
タニアは、全てを明らかにするためにアレクシスと直接対峙することを決めた。その夜、彼女は屋敷に彼を招き、静かな談話室で二人きりの時間を作った。
「アレクシス様、あなたにお聞きしたいことがあります。」
タニアは紅茶を差し出しながら切り出した。彼の表情は相変わらず穏やかだったが、タニアの鋭い目つきに気づいたのか、わずかに警戒心を浮かべた。
「もちろん、何でもお答えします。」
アレクシスは微笑みながら答えたが、その態度がかえってタニアの疑念を深めた。
「あなたの家系についてです。」
タニアの言葉に、アレクシスの微笑みが消えた。その沈黙が、彼女に全てを物語っていた。
「フォード家……あなたの一族は、かつて私の家族を陥れた張本人の一つです。なぜその一族の人間であるあなたが、私を助けるのですか?」
タニアの声は冷たく、鋭かった。
アレクシスはしばらく目を伏せていたが、やがて静かに口を開いた。
「その通りです、タニア様。私はフォード家の人間です。そして、私の父がローズウッド家を陥れた計画に関与していたのも事実です。」
その言葉に、タニアの心は怒りで震えた。しかし、彼の次の言葉はさらに予想外だった。
「だからこそ、私はあなたを助けたかった。父の罪を償うために。」
罪と償いの告白
「償いですって?」
タニアの声には怒りがこもっていた。彼女にとって、家族を失った悲しみと屈辱を思い起こさせる相手が、目の前にいるのだ。
アレクシスは深く息をつき、タニアの目を見つめた。
「私の父が行ったことは許されるものではありません。あなたの家族を陥れ、多くの人々の人生を狂わせた。その罪を消すことはできませんが、少しでも償いたいと思ったのです。」
「償いのために私に近づいた……そういうこと?」
「そうです。しかし、初めてあなたにお会いした時、私はただの償い以上のものを感じました。あなたの強さ、美しさ、そして目的のために揺るがない決意に、心を奪われたのです。」
アレクシスの言葉は真摯だったが、タニアはそれを完全に受け入れることができなかった。
「そんな言葉で私の怒りを鎮められると思っているの?」
「いいえ、そんなつもりはありません。ただ、私はあなたの側で尽くすことで、少しでも罪を償いたいのです。」
タニアの迷い
タニアは深く考え込んだ。アレクシスの言葉には嘘は感じられなかったが、それでも彼がフォード家の人間であるという事実は、簡単に受け入れられるものではなかった。
「私の家族を奪った一族の人間が、今さら償いだと言って何になるの?」
タニアの胸には怒りと疑念が渦巻いていた。
「私を許す必要はありません。ただ、あなたが目指す復讐の道を歩む手助けをさせてください。」
アレクシスはそう言い残し、静かに部屋を後にした。
彼の背中を見送りながら、タニアは自分の心の中で葛藤していた。彼の行動は偽りなのか、それとも本心からなのか。そして、もし本心からだとしても、彼を受け入れるべきなのか――。