アルバート男爵の策略によって苦境に立たされ、信頼していたマリアの裏切りやアレクシスの正体に動揺しながらも、タニア・ローズウッドは復讐を諦めることはなかった。彼女は一連の出来事によってさらに冷静さを研ぎ澄まし、最後の一撃を仕掛ける準備を進めていた。
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決定的な証拠
タニアはリゼットの助けを借り、アルバート男爵を追い詰めるための最終的な証拠を掴んだ。それは、彼の貿易事業が違法労働力を利用していることを示す契約書と、資金洗浄に関与している詳細な記録だった。この証拠があれば、男爵を社交界から完全に排除することができる。
リゼットが持ち帰った書類を見つめながら、タニアは静かに微笑んだ。その微笑みには、復讐を果たす者の冷徹さが宿っていた。
「これで終わりね、アルバート男爵。」
タニアは舞踏会を計画し、その場で証拠を公表することで男爵を追い詰めることを決意した。社交界の注目が集まる華やかな場は、彼にとって最も屈辱的な舞台となるだろう。
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舞踏会の夜
タニアが主催する舞踏会には、王侯貴族や社交界の名士たちが集まっていた。彼女は紅いドレスを纏い、堂々とした態度で来場者を迎えた。その姿には、かつてのローズウッド家の威光を彷彿とさせる気品が溢れていた。
アルバート男爵も招待客の一人として会場に現れた。彼は余裕のある表情で他の貴族たちと談笑していたが、内心ではタニアが何を企んでいるのかを警戒していた。
「彼女がこれ以上何をしようと、私を倒すことはできない。」
そう自分に言い聞かせながらも、どこか落ち着かない様子が見て取れた。
一方で、タニアは計画を着実に進めていた。リゼットが証拠の書類を準備し、彼女がそれを公開するタイミングを待っていた。
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暴露の瞬間
舞踏会が中盤に差し掛かった頃、タニアは会場の中央に立ち、来場者たちに向けて声を上げた。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。この場を借りて、ある重要な話をさせていただきます。」
その声に、会場が静まり返った。彼女が注目を浴びる中、アルバート男爵の表情が緊張で硬くなるのをタニアは見逃さなかった。
「私は本日、皆様に一つの真実をお伝えします。この真実は、私の家族の名誉を取り戻し、そして社交界を浄化するためのものです。」
そう言いながら、タニアはリゼットから渡された書類を掲げた。
「この書類には、アルバート男爵が違法な労働力を用いて利益を得ていた証拠が記されています。また、その不正な資金洗浄の詳細も含まれています。」
彼女の言葉に、会場がざわめき始めた。アルバート男爵は真っ赤な顔をしながら叫んだ。
「それは捏造だ!私がそのようなことをするはずがない!」
だが、タニアは冷静だった。
「捏造かどうかは、これから裁かれるでしょう。この場において、私の言葉を疑うのであれば、証拠を確認していただいて構いません。」
彼女の毅然とした態度に、周囲の人々はますます男爵を疑うようになった。
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男爵の失脚
舞踏会が終わる頃には、アルバート男爵の悪事は完全に露見し、彼の地位と名誉は崩壊していた。彼は貴族たちから見放され、社交界から追放されることが決定的となった。
タニアはその様子を冷たい目で見つめていた。
「これで終わりね。」
彼女の心には達成感があったが、その一方で、完全な満足感とは言えない微妙な感情もあった。
復讐が果たされたことで、心に空いた穴が存在することに気づいたのだ。それは、家族を失った悲しみや、信頼していた人々に裏切られた傷跡が、復讐だけでは癒されないことを示していた。
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アレクシスとの再会
舞踏会が終わった後、タニアは会場の片隅でアレクシスの姿を見つけた。彼は静かにタニアを見つめ、言葉を発することなく頭を下げた。
「あなたもこれを見届けに来たの?」
タニアは少し冷たい口調で問いかけた。
「はい。あなたが勝利することを信じていました。」
アレクシスの声には誠実さが込められていたが、タニアは彼を完全には信用できなかった。
「私は復讐を果たしたわ。でも、それで全てが終わったわけではない。」
タニアはそう言い残し、静かにその場を立ち去った。