華やかな舞踏会の夜が訪れた。この夜は、タニア・ローズウッドにとって復讐の物語に幕を下ろす最後の舞台だった。会場となる貴族の館は、美しく装飾され、煌めくシャンデリアの光が床に反射して輝いていた。誰もがこの夜の主役になりたいと願う中、タニアはその存在感で全ての視線を奪うだろう。
彼女が纏っているのは、母の形見である紅いドレスだった。それは復讐を象徴する色であり、今夜がそのドレスを纏う最後の時になるとタニアは心に決めていた。
---
注目の的となるタニア
会場の扉が開き、タニアが姿を現した瞬間、ざわめきが広がった。彼女の気品ある歩みとその装いは、誰もが息を呑むほどに美しかった。紅いドレスの鮮烈な色合いが、会場の中で彼女を際立たせていた。
「タニア・ローズウッド……なんて美しいのかしら。」
「かつてローズウッド家が持っていた威厳そのものね。」
誰もが彼女の美しさと気品に驚嘆していたが、タニアの内心は静かだった。この夜が彼女にとって何を意味するのか、それを知る者は誰もいなかったからだ。
タニアは会場を見渡し、これまで自分を嘲笑してきた人々や、かつての敵たちを冷静に観察した。その中には、既に失脚したアルバート男爵や、すっかり社交界の中心から外れたベアトリスの姿もあった。彼らの影が薄くなっていることを確認し、タニアは内心で小さく笑みを浮かべた。
---
最後の挨拶
舞踏会の中盤、タニアは会場の中央に立ち、招待客たちに向けて挨拶を始めた。その声は澄んでいて、少しも震えていなかった。
「本日は、このような素晴らしい夜に皆様とご一緒できることを心より光栄に思います。」
その言葉に、周囲の貴族たちは拍手を送った。だが、タニアの目は冷静に全員を見渡しながら続けた。
「私は、この社交界で生きる皆様に一つだけお伝えしたいことがあります。それは……人を陥れる行為がいかに虚しく、そして無意味であるかということです。」
その言葉に、会場は一瞬静まり返った。彼女の言葉が誰に向けられたものなのか、皆が察していたからだ。
「復讐は決して誇れる行為ではありません。しかし、私にはどうしても果たさなければならない目的がありました。そして、それが終わった今、私は新しい道を歩むことにしました。」
タニアの言葉は静かに響き渡り、彼女が持つ威厳と覚悟が感じられた。彼女の決意を知った周囲の人々は、言葉を失いながらも、自然と拍手を送っていた。
---
紅いドレスの意味
挨拶を終えた後、タニアは会場の片隅に立ち、再び紅いドレスを見下ろした。このドレスは、母の誇りと家族の名誉を象徴するものだった。だが、今夜を最後に、このドレスを纏う必要はなくなる。復讐という名の舞台を降りることで、新たな自分として歩み始める準備ができたのだ。
「母もきっと、この決断を喜んでくれるはず。」
タニアはそう呟くと、小さな微笑みを浮かべた。
このドレスは、タニアの物語を支えた重要な存在だった。そして、この夜、それは彼女の復讐の完結を象徴する最後の役割を果たした。
---
新しい一歩のために
舞踏会が終わりに近づくにつれ、タニアは胸の中に湧き上がる新たな感情に気づいた。それは、これまで彼女を支えてきた復讐心が消え、代わりに自由への期待と希望が生まれた瞬間だった。
「もう十分よ。これ以上過去に縛られる必要はない。」
そう心に誓い、タニアは舞踏会を後にする決意をした。
紅いドレスに袖を通すのは、これが最後。それを理解したタニアは、ドレスの裾をそっと撫でた。そして、自らの過去をしっかりと胸に刻みながらも、未来に向けて一歩を踏み出す準備を整えた。
--