「食べたいもの、あります?」
カートを押しながら、先輩に尋ねた。
「カレー、食べたいな」
「甘口ですか?」
「……中辛で」
「中辛ですか。ちゅー辛ですね」
しょうもないダジャレを挟んでしまったが、先輩は何も反応せず、きゅうりを手に取った。スルーされるのにも慣れてきた。だって今、先輩がスーパーで買い物してる。それだけでもう十分だ。
きゅうりの次はバナナ。一本ずつじゃなくて房で売っているのが少し惜しい。
「朝、時間がなくなるだろうからさ。バナナとヨーグルトなら手軽でいいかなって思って」
先輩は淡々と言いながらも、少し嬉しそうに見えた。生活を考えての買い物。隣にいる自分がその「日常」に含まれているようで、ちょっとくすぐったい気持ちになる。
「きゅうりは、味噌つけて食べるんですか?」
「うん。急に食べたくなっちゃった」
「じゃあ、味噌も買っておきましょう」
そう言って、俺は棚からいつもの赤味噌を手に取った。
「アイス、何にします?」
「うーん……どれにしようかなぁ」
アイス売り場の前で、先輩はしばらく悩んでいた。悩むその様子すら、なんだか可愛くて目が離せない。
「ハーゲンダッツにしよっかな」
「いいですね。冷凍庫のスペース、まだ余裕ありますし」
「ガリガリ君の梨味って美味しいの?」
「美味しいです。潰してサイダーに入れると最高ですよ。ぜひ一度お試しあれ」
「へえ、じゃあ……何本か買っとこうかな」
「さすが先輩、話が早い」
2人で笑いながらアイスをカゴに入れた。時間が経つのも忘れそうだったが、アイスが溶ける前にレジを済ませて、俺たちは急ぎ足で帰路についた。