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第37話「さすが先輩、話が早い」

「食べたいもの、あります?」


 カートを押しながら、先輩に尋ねた。


「カレー、食べたいな」


「甘口ですか?」


「……中辛で」


「中辛ですか。ちゅー辛ですね」


 しょうもないダジャレを挟んでしまったが、先輩は何も反応せず、きゅうりを手に取った。スルーされるのにも慣れてきた。だって今、先輩がスーパーで買い物してる。それだけでもう十分だ。


 きゅうりの次はバナナ。一本ずつじゃなくて房で売っているのが少し惜しい。


「朝、時間がなくなるだろうからさ。バナナとヨーグルトなら手軽でいいかなって思って」


 先輩は淡々と言いながらも、少し嬉しそうに見えた。生活を考えての買い物。隣にいる自分がその「日常」に含まれているようで、ちょっとくすぐったい気持ちになる。


「きゅうりは、味噌つけて食べるんですか?」


「うん。急に食べたくなっちゃった」


「じゃあ、味噌も買っておきましょう」


 そう言って、俺は棚からいつもの赤味噌を手に取った。


「アイス、何にします?」


「うーん……どれにしようかなぁ」


 アイス売り場の前で、先輩はしばらく悩んでいた。悩むその様子すら、なんだか可愛くて目が離せない。


「ハーゲンダッツにしよっかな」


「いいですね。冷凍庫のスペース、まだ余裕ありますし」


「ガリガリ君の梨味って美味しいの?」


「美味しいです。潰してサイダーに入れると最高ですよ。ぜひ一度お試しあれ」


「へえ、じゃあ……何本か買っとこうかな」


「さすが先輩、話が早い」


 2人で笑いながらアイスをカゴに入れた。時間が経つのも忘れそうだったが、アイスが溶ける前にレジを済ませて、俺たちは急ぎ足で帰路についた。

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