「おやじ、何か手がかりはないのか?」と和也。
「ないな」と正一。「そのうち出てくるじゃろ。待つんじゃな。」
「心配じゃないのかよ。あんたの孫だぞ」と和也。
「今帰ってきたとして、あいつをどうするつもりじゃ。弘樹の性格からして、お前の家にはもう帰りたがらんじゃろ。連れ帰っても、また何も言わずに家出するだけじゃ」と正一。
「まあ、それもそうだな」と和也。
「弘樹に居場所を作ってやらにゃあな。大人なら所帯を持たせれば済むのじゃが」と妙。
「めんどくせえなあ」と和也。
「お願いします。もう一度、弘樹君を家で預からせてください。今度こそきちんとお世話をして見せます。このままでは弘樹君にも皆様にも申し訳が立ちません。どうか私にお任せを」と令子が手をついた。
「私も精いっぱい努力いたしますので、ぜひ弘樹君をお任せください」と麻里が母に並んで手をついた。
「まあ、二人とも頭を上げて。今回の件は、あんたたちだけのせいじゃないから」と正一。
「責任の問題じゃないんだ。あいつが逃げだせないような仕掛けがいるんだよ。子供を作っちまうとか」と和也。「安達さんだったか、弘樹のことを気に入ってくれてる女の子は。いっそのこと婿養子として引き取ってもらうってのはどうだ。」
「ふざけないで!」血相を変えた朱良が和也を睨みつけた。「あなたって人は……。よくも婿養子だなんて……、許せない。弘樹はうちで引き取ります。本来いるべき場所はここなんです。」
「だから、誰が親になるんだよ。子供が子供を育てるのか?」と和也。
「あなたたちだって、親の役目なんて果たしてないでしょう。姉が弟の面倒を見て何が悪いんですか?私が責任を持って引き取ります」と朱良。
「何をいまさら保護者面してるんだよ。そもそもお前、弘樹のことを好きじゃないだろ。弘樹はそういうのが嫌で逃げ出してるんだよ。あなたのために家族をしてあげてます、みたいなのをな。」
この言葉に全員がぎょっとして、気まずい雰囲気になった。
「すまん、言い過ぎたよ」と和也がつぶやいた。
「弘樹がどうしたいかを聞くのが一番じゃな」と正一。
「もう、戻ってこないのが一番だと思うぜ」と和也。
朱良は肩を震わせて泣いた。妙が朱良の肩を抱いて部屋の外に連れていった。
「あんたらの布団は奥の部屋に用意しておいたから、ゆっくり休んでくれ。風呂が沸いたら順番に入ってくれ」と正一が言って部屋を出て行った。
次の日の朝、洗面所で顔を合わせた朱良に麻里は言った。「弘樹の手がかりを見つけたら、どんな些細なことでもすぐ連絡します。だから連絡先を教えてください。」
朱良と麻里は連絡先を交換した。