月曜日の朝、麻里は英子のクラスの教室に行った。
「申し訳ないけど、少しだけ時間をもらえないかしら。人がいないところで少しだけ話を聞いてほしいの」と言って、麻里は英子を吹きさらしの渡り廊下に誘った。
「どんな用かしら」と英子は尋ねた。
「来月、弘樹の生家の近くの神社でお祭りがあるのだけど、そこで弘樹が鬼の役をするの。あなた、聞いてないかしら」と麻里は切り出した。
「知らないわ」と英子。
「そう。よかったら、あなたも一緒に見に行かないかと思って、誘いに来たのよ」と麻里。
「えらく唐突ね。どういうつもり?」と英子。
「お祭りの折に、弘樹に普通の生活に戻るように説得するつもりなのよ。よかったらあなたも一緒にと思って。あなたの言うことなら、弘樹も聞いてくれるかもしれないと思って」と麻里。
「随分勝手な話ね」と英子。
「こんなことお願いできる筋合いじゃないことは分かってる。この間のことを謝りたい。許してもらえるとは思わないけど」と麻里。
「随分しおらしいのね。あなたらしくない」と英子。
「ええ、あれから弘樹を探して、自分がひどく思い上がっていたことに気付かされた」と麻里。「私、弘樹の生家に行って、ひどく罵倒されたわ。あなた、知ってるでしょ。弘樹の生家って道場なのよ。義父が道場を飛び出した時、弘樹を連れて来たって。」
「その話は少しだけ弘樹から聞いたわ。あまり話したそうじゃなかったけど」と英子。
「経緯を聞かされて、なんだか弘樹にかわいそうなことをしてしまったと思ったわ」と麻里。
「安っぽい話ね。興味ないわ」と英子。
「時間を取らせてごめんなさい。すぐ終わるから」と麻里。「私、その道場で、シュラと言う人の弟子になったの。」
英子の眉が上がった。「シュラってあのシュラのこと?」
「そう。伝説のシュラ。義父も戦って負けたそうよ」と麻里。
「それがどうしたのかしら。私には関係ないわ」と麻里。
「朱良は祭りで弘樹と真剣勝負をするのよ。あなた、興味ないかしら」と麻里。
「あの小さい弘樹が?冗談でしょう」と英子。
「私もそう思ったわ。でも本当よ。弘樹は流儀の技を使うことを禁じられていたの。だけど祭りでは本当の力を見せるそうよ」と麻里。
「行くわ、連れてって」と英子。