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第24話 膝枕

 朱良と仁美が部屋に入ったとき、弘樹は蘭に膝枕をされて布団の上で横になっていた。蓮が水を飲ませている。


「まだ手足がしびれてるんだ。薬を使うなんてずるいよ」と弘樹。


 朱良と仁美は弘樹の枕元に座った。


「私達も知らなかったのよ」と朱良。


「寝たきりになっても私が面倒を見てあげるから、心配しないで」と仁美。


 順子と麻里と英子も部屋に入り、布団の側に座った。


 和也と令子が部屋を覗き「なんだ、みんなここにいたのか」と和也。ほどなく「やはりここか」と正一が言いながら妙と部屋に入った。


「これでようやく弘樹がいるところで弘樹の話ができるな」と和也。


 弘樹は不機嫌そうな顔をした。


「すまんかったな、弘樹。神主に頼んで鬼役をお前にしてもらったのは、わしじゃ。それからお神酒に薬を仕込んだのもわしじゃ。恨むなら、わしを恨め」と正一。


「薬の量が多すぎだよ」と弘樹。


「もちろん多めじゃ。あのとき、薬だけでは不安じゃったから、猟友会の人たちにも来てもらっとったんじゃ。麻酔銃を撃ってもらうためにな」と正一。


「ムチャクチャだよ。ちゃんと手加減してたじゃないか」と弘樹。


「あたりまえだ。相手は女の子だぞ。本気出してどうする」と和也。


「最後は英子さんに抱きついてもらえてよかったじゃろ」と妙。


「あれは抑え込みだよ」と弘樹。


「だが負けは負けだ。ちゃんと認めろ」と和也。


「わかったよ」と弘樹は蘭に膝枕をされたまま不満そうな顔をした。


「なんであんたが膝枕してるのよ?」と朱良。


「兄は膝枕が好きなんです」と蘭。


「妹が兄に膝枕するなんて変よ」と朱良。


「そんなことはないわ」と蓮。


「私たちは愛を誓い合ってるの」と蘭。


「なんですって。兄妹で愛なんて私は絶対認めないわ」と朱良。


「話が混乱するから、その話は後にしてちょうだい」と順子。


「弘樹をこの道場で引き取るわ」と朱良。


「だが中学校はどうする?」と和也。


「転校してもらうわ」と朱良。


「だがもうじき高校受験だ。転校はかわいそうだろう。今の中学を卒業させてやれ」と和也。「弘樹、お前も今の友達と卒業したいだろう?」


「うん。まあ」と弘樹。


「じゃあ決まりだな。中学卒業まではうちにいてもらう。令子、麻里ちゃん、いいだろう?」と和也。


「もちろんよ」と令子。


「私も姉としてできるだけのことをします」と麻里。


「中学校に友達はいるんじゃろう?」と正一。


「うん」と弘樹。


「伊藤健一君という友達がいて、よくお宅におじゃましてるんです。泊まりで遊びに行くことも多いのです」と令子。


「本当か?」と和也。


「ええ、伊藤君のお母さんから時々電話をもらっています」と令子。


「本当に友達なのか?」と和也。


「そうだよ」と弘樹。


「どんな友達だ。信じられないな。泊まりで何して遊ぶんだ?」と和也。


「普通に格闘ゲームとかだよ。ピアノもあるし」と弘樹。


「そうか、うちにも来てもらうといい。本当の格闘を教えてあげよう」と和也。


「絶対にやめてよ。そんな事」と弘樹は困った顔をした。


「弘樹兄さんが仲がいいのは、お母さんの方よ」と蓮が言った。


 全員がぎょっとした顔をした。


「健一という人とは遊んであげてるだけだから」と蘭。


「どういうことなんだ」と和也が怖い顔をした。


「その通りの意味よ。弘樹兄さんは家庭環境を同情されて、その家のお母さんにかわいがられているの」と蓮。


「優しくしてもらう代わりに、健一という引きこもりの子供と遊んであげてるのよ」と蘭。


「何だって。変な仲になってるんじゃないだろうな」と和也。


「ぱっちゃりした体型でオッパイが柔らかいそうです」と蓮。


「何であなたがそんなこと知っているの?」と令子。


「もちろん、兄から聞いているからですわ。お兄様の義理のお母さま。ちなみに、伊藤家の夫は海外に赴任中で家を空けているそうですわ」と蘭。


 部屋がシンと静まった。


「何が悪いのかわからないよ」と弘樹。


「何だと!」と和也。「お前がやっていることは、人の道に外れてるんだよ!」


「あなたの言う人の道とは何か、聞いてみたいものですわ」と蓮が和也を睨んだ。


「お前がそれを言うのは問題だな。特にこの子たちにはな」と正一。


「じゃあどうすりゃいいんだ。このまま中学校に通わすわけにいかないだろう」と、和也。


「やはり予定通り、今日から道場で引き取ります。中学校なんて通う必要ないわ。弘樹はここで生きていけばいいのよ」と朱良。


「わしらは構わんが」と正一。「お前はどうするんじゃ。ちゃんと両親に話をするんじゃぞ。」


 何も決まらないまま、和也と令子、麻里、英子は車で帰った。麻里と英子は朱良と仁美、順子と連絡先を交換して、また会うことを約束した。


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