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第26話 帰宅

 次の週末、和也と令子は再び道場を訪ねた。


「考えたのだが、やはり弘樹はうちで預かるよ。中学卒業までだ。その後は好きにすればいい」と和也。


「どうだ、弘樹」と正一。


「うん、それでいいよ」と弘樹。


「友達のお母さんの件はいいのかい?」と妙。


「ああ、伊藤さんのお宅に令子と会いに行ったんだ。すごく感謝されちまってな。健一君は学校に行けるようになっただけでなくて、成績が上がって進学校を受験するそうだ。それから、弘樹が中学卒業後は姉妹と暮らすことになりそうだって言ったら、すごく喜んでたよ。泣いて弘樹のことをよろしくってな。まるであっちがほんとの親のようだったよ」と和也。「弘樹、また会いに行ってやれよ。」


「あんた、何しに行ったんだよ」と妙。「朱良はいいのかい。」


「ええ。そちらに様子を見に行ってもいいかしら。弘樹の生活を見たいから。泊めてもらえるとありがたいわ」と朱良。


「もちろんよ。いつでも泊りに来てちょうだい」と令子。


「きっと麻里も喜ぶよ」と和也。「ただ、家が狭くて部屋がないんだ。悪いけど、リビングのソファーでいいか?」


「私は弘樹の部屋で寝かせてもらうわ」と朱良。


「そうなの、じゃあ布団を用意するわ」と令子。


「いいえ、布団も結構です。弘樹と寝ますから」と朱良。


「それは、まずいだろ。さすがに」と和也。


「いいえ、おかまいなく」と朱良。


「ひょっとして、お前らできてるのか?」と和也。


「悪いかしら」と朱良。


「ちぇっ、ガチなのかよ。いいのか、おやじ。あんたらの孫だぞ」と和也。


「お前の子供たちだろ」と正一。


「せいぜい子供ができないように気をつけるんだな」と和也。


「ご心配なく。ちゃんと避妊してるわ」と朱良。


「ドン引きだよ。弘樹は相手構わずだな。ちょっとは相手を選べよ」と和也。


「余計なお世話よ」と朱良。


「麻里は元気なのかしら」と朱良。


「それが、少し落ち込んでいるの」と令子。「弘樹君と戦ってから自信を失ったみたいで、東京の大学のスポーツ推薦を断ってしまったの。体育の先生になるために、地元の大学の教育学部を受験する準備をしているのよ。」


「親としては複雑な心境だよ。堅実な道を選んでくれるのはうれしいけど、格闘家になるのを期待してたからな」と和也。


「どちらの道を選ぶにしても、朱良さんに来てもらえたら、きっと麻里は元気を出すわ。ぜひ泊まりに来て」と令子。


「ええ、必ず行かせてもらいます」と朱良。


「ところで、朱良さんは進路が決まっているの?」と令子。


「はい、受験勉強をしています。地元の薬学部を受けるつもりです」と朱良。


「あら、優秀なのね。でも、あなたならスポーツ推薦で引く手あまたでしょうに」と令子。


「私は公式戦の記録が全くないので推薦入試を受けられないのです。それに将来の生活のこともあるので」と朱良。


「まあ、薬剤師なら食いっぱぐれはないからな」と和也。


「先日ご一緒した順子さんと仁美さんは大学生ですか?」と令子。


「令子さんはすっかり受験生のお母さんだねえ」と正一。


「順子は地元の医学部の学生で、仁美は看護学部の学生じゃ」と妙。


「運動だけではなくて勉強もおできになってすごいのね。二人とも親戚の方ですか」と令子。


「順子は俺の上の兄貴の娘で、仁美は下の兄貴の娘だ。兄貴たちはこの道場が嫌で出て行ったんだが、義理で娘をここの内弟子にしたんだ。女の子なら道場を継がされることはないと考えたらしいよ」と和也。


「あれほどの身体能力を身につけるトレーニングをして、そのうえ医学部に入学するなんてすごいことよ。内弟子になって正解ですわ」と令子。


「朱良や弘樹みたいな化け物になっちまうかもしれないけどな」と和也。


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