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第29話 夕食(1)

 朱良の出稽古の後、令子は英子を夕食に誘った。和也と令子は麻里と英子を車に乗せ、弘樹と朱良は電車で帰ることになった。車の四人が先に家に着いた。令子が食事の用意をし、麻里と英子は順にシャワーを浴びた。


 二人が食卓につくと、すでに和也は缶ビールを開けて飲んでいた。「朱良と弘樹がいないが先に始めよう」と言って、おかずの揚げ物をむしゃむしゃと頬張った。


「英子さん、遠慮しないで食べてね」と令子。


「いただきます」と言って英子と麻里は無言で食べ始めた。何も雑談をしようとしない。


「どうした、お前たち。なんか聞きたいことがあるのか?」と和也。


「はい。祭りのとき弘樹が使っていた技は、道場の秘伝なのでしょうか?」とまず英子が尋ねた。


「まあ、秘伝というか、奥義の一部だな。あんなもの習ったからって誰でも使えるものじゃない。俺も無理だ」と和也。


「あの技は正一先生から習ったものなのでしょうか」と麻里。


「いいや、おふくろと先代の修羅だ。おふくろ達も技を使えるわけじゃなくて、使い方を教えただけだけどな」と和也はビールを飲んで続けた。「親父は婿養子で、血統上の伝承者はおふくろだ。先代の修羅はおふくろの兄だ」


「先代も修羅は当主ではなかったのですか?」と令子。


「ああ、シュラが当主になったことはない。そもそも、シュラは当主の守護者というか、荒事を引き受ける役割らしいんだ。朱良の役割は代々口伝で伝わってる。だから俺も詳しいことを知らねえ。先代の修羅も死ぬ間際に今の朱良に伝えたらしい」と和也。


「変わった習慣ですね」と英子。


「習慣というか、自然とそうなるらしいんだよ」と和也。


「弘樹君はよほど修行をしたんでしょうね」と令子。


「あまりしてねえな」と和也。


 三人はびっくりした顔をした。


「さっきから言ってるだろ。習ったからってできるもんじゃないって」と和也。


 三人は怪訝そうな顔をした。


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