その日の夜中に事情聴取を終えて弘美と弘樹は警察署を出た。警察によると、犯人たちは地元のチンピラで、いたずら目的で弘美を誘拐した。バイクで追いかけてきた麻里と弘樹を振り切ろうとして車を加速した際に路肩を突き抜けて石垣の壁に衝突した。ルーフは低い街路樹の枝に引っかかったために破損、と説明された。車載のドライブレコーダーは事故で壊れていた。
カラオケ店を経営する早苗と亜紀の両親がせっかくの機会だからと言いだし、お店に集まって食事会をすることになった。関係者が、舞台のある大きな部屋に案内された。バンドメンバーの絵里、弘樹、弘美、早苗、亜紀、親の和也、令子、淑子、それから事件を目撃して警察に通報した朱良、麻里、英子が席に着いた。早苗と亜紀の両親の綾と俊之が料理と飲み物を配った。
「ここで練習させてもらってるのよ」と絵里。
「いつもありがとうございます」と令子。
「バンドが仲良くまとまれているのは絵里ちゃんのおかげだって、早苗と亜紀がいつも言ってますわ」と綾。
「えへへ」とエリ。
「私たちまでいいのかしら」と英子。
「あなたたちのおかげで弘美が無事に帰ってこれたのです。ぜひお礼をさせてください」と淑子。
「追いかけたのは麻里と弘樹で、私たちは何もしていないわ」と朱良。
「いいえ、とんでもありません。皆さんの協力がなければ、警察がすぐに来てくれませんでしたし、状況もよくわかりませんでした。本当にありがとうございました。とくに麻里さんと弘樹君には感謝しています」と淑子は頭を下げた。
「弘美、あなたも皆さんにお礼を言いなさい」と淑子。弘美は弘樹の腕にしがみついたまま立ち上がって、「ありがとうございました」と頭を下げた。
「二人は仲がいいのね」と綾。
「付き合ってるのよ」と絵里。
「え、本当なのか?弘樹、まさか変なことをしてないだろうな」と和也。
「結婚するそうよ」と朱良。
「ええ!弘樹、相手は小学生のお嬢さんだぞ!」と和也。「おい、朱良。お前も姉としてなんか言うことないのか。」
「無いわ。前から知ってたもの。それより英子はいいの?」と朱良。
ビックリした英子は飲み物をこぼしかけた。「私は、弘樹が結婚するならうれしいわよ。結婚式に呼んでね。」