環境の変化に弱い弘樹が、引っ越しの翌日から風邪で寝込んだ。蘭と蓮が中学校に登校したあと、朱良が弘樹の世話をしていた。
夕方、呼び鈴が鳴った。朱良がドアを開けると、蓮と蘭の友達の友里がいた。
「こんにちは」と友里。
「蓮と蘭ならまだ帰ってないわよ」と朱良。
「そうなのですか」と友里は残念そうな顔をした。
「中に入って待っててもらってもいいわよ」と朱良。
朱良が友里を蓮と蘭の部屋にいれた。
「ここの場所を蓮から聞いたの?」と朱良。
「いいえ。田中先生に教えていただきました。引っ越しされたと聞いて驚きました。蓮が何も言ってくれないなんてひどいです」と友里。
「ちょっと家庭の事情があったのよ。それにここはお友達を呼ぶには狭いでしょう」と朱良。
「そうですね」と友里。
朱良はお茶を出した。「私はちょっと用事で手が離せないから、ここで蓮と蘭を待っててもらえるかしら。」
「どうぞお構いなく」と友里。
程なく蓮と蘭が帰宅した。「ただいま」と蓮と蘭。
「お友達が来てるわよ」と朱良。
蓮が、だだだっと駆け上がってバンとふすまを開けた。
友里が座っている。「待たせてもらったわ。」
「あなた、なぜここがわかったの?」と蓮。
「田中先生に聞いたの。レッスンに行ったらあなたがいないので、事情を教えてもらったのよ」と友里。
「誰にも言わないでって言っておいたはずなのに」と蓮。
「すぐには教えてくれなかったわ。それで泣いたの」と友里。
「女には口が軽いのね、あの男は」と蓮。
「それで、何の御用?」と蓮。
「ご挨拶だわ。せっかく訪ねてきたのに」と友里。
「それで何の用?」と蓮。
「何で教えてくれなかったのよ。何も言わないで引っ越すなんてひどいわ!」と友里。
「転校するわけじゃないよ。毎日学校で会ってるのに、何が問題なの?」と蓮。
「私、もうすぐ卒業するのよ。それに私に隠し事なんてひどいわ!」と友里。
「言う必要ないでしょ」と蓮。
「いいえ、あるわ。レッスンの後、あなたに会えなかったわ」と友里。
「言ったら友里は押し掛けてくるでしょ」と蓮。
「もちろんよ!」と友里。
「ここ狭いのよ」と蓮。
「言っておいてくれれば、もっと気を使ったわ」と友里。
「来なかったの?」と蓮。
「皆さんの食事を持っておじゃましたわ」と友里。
蘭は二人の会話を気にも留めず、朱良の部屋に入り弘樹の様子を見た。寝ている弘樹の顔を撫でた。
「弘樹が起きてしまうわね」と朱良。
「あの人、蓮に夢中なの」と蘭。