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第50話 押し掛け客(1)

 環境の変化に弱い弘樹が、引っ越しの翌日から風邪で寝込んだ。蘭と蓮が中学校に登校したあと、朱良が弘樹の世話をしていた。


 夕方、呼び鈴が鳴った。朱良がドアを開けると、蓮と蘭の友達の友里がいた。


「こんにちは」と友里。


「蓮と蘭ならまだ帰ってないわよ」と朱良。


「そうなのですか」と友里は残念そうな顔をした。


「中に入って待っててもらってもいいわよ」と朱良。


 朱良が友里を蓮と蘭の部屋にいれた。


「ここの場所を蓮から聞いたの?」と朱良。


「いいえ。田中先生に教えていただきました。引っ越しされたと聞いて驚きました。蓮が何も言ってくれないなんてひどいです」と友里。


「ちょっと家庭の事情があったのよ。それにここはお友達を呼ぶには狭いでしょう」と朱良。


「そうですね」と友里。


 朱良はお茶を出した。「私はちょっと用事で手が離せないから、ここで蓮と蘭を待っててもらえるかしら。」


「どうぞお構いなく」と友里。


 程なく蓮と蘭が帰宅した。「ただいま」と蓮と蘭。


「お友達が来てるわよ」と朱良。


 蓮が、だだだっと駆け上がってバンとふすまを開けた。


 友里が座っている。「待たせてもらったわ。」


「あなた、なぜここがわかったの?」と蓮。


「田中先生に聞いたの。レッスンに行ったらあなたがいないので、事情を教えてもらったのよ」と友里。


「誰にも言わないでって言っておいたはずなのに」と蓮。


「すぐには教えてくれなかったわ。それで泣いたの」と友里。


「女には口が軽いのね、あの男は」と蓮。


「それで、何の御用?」と蓮。


「ご挨拶だわ。せっかく訪ねてきたのに」と友里。


「それで何の用?」と蓮。


「何で教えてくれなかったのよ。何も言わないで引っ越すなんてひどいわ!」と友里。


「転校するわけじゃないよ。毎日学校で会ってるのに、何が問題なの?」と蓮。


「私、もうすぐ卒業するのよ。それに私に隠し事なんてひどいわ!」と友里。


「言う必要ないでしょ」と蓮。


「いいえ、あるわ。レッスンの後、あなたに会えなかったわ」と友里。


「言ったら友里は押し掛けてくるでしょ」と蓮。


「もちろんよ!」と友里。


「ここ狭いのよ」と蓮。


「言っておいてくれれば、もっと気を使ったわ」と友里。


「来なかったの?」と蓮。


「皆さんの食事を持っておじゃましたわ」と友里。


 蘭は二人の会話を気にも留めず、朱良の部屋に入り弘樹の様子を見た。寝ている弘樹の顔を撫でた。


「弘樹が起きてしまうわね」と朱良。


「あの人、蓮に夢中なの」と蘭。


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