「もうちょっと静かにしてくれない?」と朱良。
「ごめんなさい」と友里。「でもこの際だから言うわ。私、あなたのことが好きなの。愛してるわ。だから私と付き合って。」
「断るわ」と蓮。「私、レズじゃないから。」
「あなた、男子に全然興味ないじゃない。私、知ってるわよ」と友里。
「私には愛を誓い合った相手がいるわ」と蓮。
「うそよ。あなた、前からそんなこと言って、一度も会わせてくれたことないじゃない。写真を見せてって言っても、いつもはぐらかすじゃない」と友里。
「隣の部屋にいるわ」と蓮。「今、一緒に住んでいるの。」
「うそ」と友里。「あなたのお姉さんの朱良さんしかいないじゃない。」
「風邪で寝てるのよ。体が弱いから」と蓮。「だからあまり大声を出さないで。」
「そんなのうそよ!」と友里。「じゃあ会わせて!私に会わせて!」
「蓮、好きって言ってくれる相手をそんなに邪険にしちゃだめよ」と朱良が割って入った。
「お姉さん、本当なんですか?男の人と一緒に住んでるって」と友里。
「ええ、本当よ。ここで寝てるわ。弟の弘樹よ」と朱良。
「お兄ちゃんが目を覚ましちゃったわ」と蘭。
弘樹が上半身を起こした。「こんにちわ」と弘樹が友里に向かって軽く会釈した。
「どうもはじめまして。友里と言います。お兄さんがいたなんて知りませんでした」と友里。
「家庭の事情があって離れ離れになっていたのよ。だけどここで一緒に住むことにしたの」と朱良。
「こんな狭いところで四人で住むのですか?」と友里。
「そうよ」と蓮。「悪いかしら。」
「兄が好きなんて異常だわ。血がつながってるのでしょう?」と友里。
「あなたに言われたくないわ。女の子同士のほうが異常よ」と蓮。
「私、絶対納得しないわ!いやよ、こんなこと!」と友里が泣いて畳の上に突っ伏した。
「困ったわね」と朱良。「蓮、付き合ってあげたら。」
「なによ、他人事だからって!」と蓮。
「それより、そろそろ夕食の時間よ。兄さんに何か食べさせないと」と蘭。「私、食事の準備をするわ。」
「友里さんもよかったら、一緒に食べる?」と朱良。
「いいんですか?」と友里。
「ええ、大したものは出せないけど」と朱良。
「手伝います!私、料理得意なんです。いつでも蓮のお嫁さんになれるようにって料理を習っているんです」と友里。
食事の用意ができて、朱良の部屋で食卓を囲んだ。
弘樹は布団から体を起こし、蘭が横に座って体を支えた。「いただきます」と言って食べ始めた。
「おいしいわね」と朱良。
「私、味付けには自信があるんです」と友里。
「蓮、この子と結婚しちゃいなさいよ」と朱良。
「姉さん、ふざけないで!」と蓮。
「だけど、なぜ蘭じゃなくて蓮なの?」と朱良。
「蓮ちゃんと蘭ちゃんでは全然違います。蓮の方がりりしいんです」と友里。
「まあ、確かに蓮の方が男っぽいかしら」と朱良。
「そんなことないわよ!」と蓮。
「弘樹さんとどこかで会ってないかしら」と友里。
「会ってるかもしれないわ。田中家に出入りしてるから」と朱良。
「え?」と友里。「ひょっとして、弘美といつも一緒にいる男の子?」
「そうよ、あの家で弘美ちゃんにピアノを教えてるのよ。ここにはピアノがないから」と朱良。
「小学生と思っていたわ。それに教えるって、ピアノを弾くの?」と友里。
「小学生はひどいわよ!」と蓮。
「姉弟のなかで弘樹だけ弾くの。宮崎ナナの唯一の教え子よ」と朱良。
友里は少し驚いた顔をした。「宮崎先生とは離れ離れだったはずなのに、教え子って変だわ」と友里。
「子供のときに習ったんだ」と弘樹。
「めったに人に教えないって有名な宮崎先生から習ったの?」と友里。
「習ったというか、物心つく前から母とピアノを弾いていたんだ」と弘樹。
「それで弘樹さん、蓮と愛を誓ったというのは本当ですか?」と友里。
「ええ、まあ」と弘樹。
「兄と妹って不健全とは思いませんか?」と友里。
「まあ、そうかな」と弘樹。
「ちゃんと答えてください!」と友里。
「うん」と弘樹。
「私は蓮を愛してます。私が蓮を連れていったらどうしますか?」と友里。
「それは蓮が考えて決めればいいから」と弘樹。
「本当にいいんですか?」と友里。
「蓮が幸せなら、ぼくはどうでも構わないよ」と弘樹。
「話はついたわね。友里ちゃん、蓮を連れて駆け落ちするのよ。今すぐにでも。私たちはあなたたちの恋を応援するから」と朱良。
「私もよ、元気でね、蓮」と蘭は弘樹の世話を焼きながら言う。「弘樹お兄ちゃんの面倒は私にまかせて!」
「ふざけないで!私は弘樹兄さんの側から絶対に離れないわよ!」と蓮。